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免疫系の武装防御を解除するタンパク質

Nature Reviews Cancer

2002年11月1日

宿主の免疫細胞の表面にはNKG2Dという受容体があり、腫瘍はその発現を抑制する可 溶性のMHC(主要組織適合遺伝子複合体)クラスI鎖関連タンパク質A(MICA)を分泌 して免疫応答を回避し、抗腫瘍応答を減少させるのかもしれない。これはGrohらの研 究結果で、今回Nature誌に掲載されている。

KG2D受容体は、ナチュラルキラー(NK)細胞、γδT細胞およびCD8+α βT細胞によって発現される。NKG2D受容体に特異的な物質(リガンド)が結合すると、 NK細胞が活性化され、エフェクターT細胞群は副刺激(補助刺激)を受ける。NKG2D受 容体のリガンドには、細胞が(ウイルス感染や悪性形質転換などの)ストレスを受け た結果として発現するMICAとMICBが含まれる。腫瘍細胞はしばしばMIC分子を発現し ており、NKG2Dを発現する宿主免疫細胞はこのMIC分子を認識して腫瘍細胞を破壊する のかもしれない。

ころが、MICを発現する腫瘍細胞が免疫系に認識されないことがよくあるので、 Grohらは、宿主のエフクターT細胞表面のNKG2Dの機能が損なわれているのではない かと疑った。そこで最初に、MIC+の腫瘍(MICを発現する腫瘍) とMIC-の腫瘍(MICを発現しない腫瘍)由来のT細胞によるNKG2Dの発現を 調べた。MIC+腫瘍由来の腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)および末梢血単核細 胞(PBMC)から単離したCD8+T細胞による細胞表面NKG2Dの発現量は、 MIC-腫瘍由来のCD8+T細胞に比較してかなり減少していた。

た、NKG2Dの発現量は、時間がたつにつれて減少したことから、MICがNKG2D発現の 抑制を誘導すると考えられた。その後の実験で、MIC+腫瘍細胞と接触し たT細胞表面のNKG2D受容体がMICを介して結合すると、この受容体の細胞内への取込 み(飲食作用)と分解を引き起こすことが示唆された。

にGrohらは、MIC+腫瘍細胞からMICタンパク質が放出されるかどうかを 調べた。MICタンパク質が放出されるならば、MIC+腫瘍細胞と直接接触し ているMIC+腫瘍由来のTILと、MIC+腫瘍細胞と接触していな いPBMCの両方ともがNKG2Dの発現を減少させたことが説明できるからだ。実験を進め た結果、MICAがMIC+腫瘍細胞から放出され、血液循環に流れ込むことが わかり、癌患者の末梢血に存在する腫瘍由来MICAがNKG2D発現の抑制を引き起こす可 能性が示唆された。このことは、MIC+腫瘍をもつ癌患者由来の血清およ び可溶性の組換えMICA分子が、末梢血から単離したCD8+T細胞表面および 黒色腫抗原特異的CD8+T細胞クローン表面のNKG2Dの発現を抑制したこと から確認された。

KG2Dの抑制と分解は、T細胞の機能にどんな影響をもたらすのだろうか。細胞傷害性 応答とインターフェロン‐γ産生能は、NKG2D発現量の高いCD8+T細胞に 比較してNKG2D発現量の低いCD8+T細胞では著しく低下していた。したがっ て、腫瘍によるMICタンパク質の放出がエフェクターT細胞の機能を低下させ、癌患者 の免疫応答を弱体化させるのである。

doi:10.1038/fake858

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