Research Highlights

MYCはストレスを減らす

Nature Reviews Cancer

2002年11月1日

MYCの履歴書では、業績欄の記入が増え続けている。新たにYuzuru Shiioらは、MYCの 発現が増加すると細胞中のアクチンストレスファイバーと接着点(focal adhesion) の量が減少し、細胞の浸潤性と転移性に影響を及ぼすことをEMBO Journalに 報告した。

hiioらはICAT(isotope-coded affinity tag)試薬標識とタンデム型質量分析を用 いて、c-Mycを欠失したMyc(-)および、Myc(-)にc-Mycを再導入し たMyc(+)の2種類のラット細胞系列におけるタンパク質の発現を細胞全体で解析し た。Myc(+)細胞には野生型細胞の約5倍のMycが存在する。これは腫瘍由来細胞系列 に見られるMyc発現の範囲内である。

析された528個のタンパク質のうち、2種の細胞系列の発現差が少なくとも2倍以上 あったものは177個であった。機能的に関連のあるタンパク質群は同じ発現パターン をとる傾向があった。たとえば細胞の形態と接着に影響を及ぼすタンパク質群である 接着分子、アクチン結合タンパク質、Rho経路タンパク質は、Myc(+)細胞では発現 が抑制されていた。また、細胞増殖に影響を及ぼすタンパク質の合成と同化にかかわ るものはMyc(+)細胞では発現が増加していた。

ycと細胞増殖のつながりはこれまでに明らかにされていたが、このことに重要な遺 伝子群を制御するMycの能力によってこのつながりは強められる。しかし、Mycと細胞 形態の関連はそうではない。さらにこれを調べるため、ShiioらはMyc(-)およびMyc (+)細胞に免疫蛍光法を行い、Myc(+)細胞は接着点とアクチンストレスファイバー がMyc(-)細胞より少ないことを発見した。これはRho経路からの情報伝達の減少に よることが明らかにされ、Myc(+)細胞に機能亢進型RhoAを導入するとアクチンスト レスファイバーが著しく回復した。

ウスNIH-3T3細胞でのMycの発現も、結果的にアクチンストレスファイバーと接着点 の減少をひき起こした。しかしこれはRhoAの発現減少により生じたのではなさそうで ある。代わりにCdc42(Rhoタンパク質ファミリーの1つ)とアクチンのレベルが減少 している。

たがってこのプロテオミクス解析により、Mycが腫瘍形成においてまだ別の機能を もつ可能性が明らかにされた。接着を弱め移動性を高めることで、Mycは浸潤と転移 を促進するのかもしれない。

doi:10.1038/nrc936

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