Research Highlights

ありがたい「干渉」

Nature Reviews Cancer

2002年10月1日

遺伝子発現を阻止するよう特異的に設計された二本鎖RNA(siRNA[short inerference RNA:干渉作用をもつ短いRNA]とよばれる)は、癌研究にとって有用な手段となりそう だ。siRNAが哺乳類培養細胞中で遺伝子発現を抑制するしくみが初めて論証されてか ら1年もしないうちに、AgamiらはCancer Cellの論文で、ウイルスRNA干渉ベ クターを用いて発癌性KRASを特異的かつ安定に不活性化できることを明らか にした。

AS遺伝子に指令されているグアニンヌクレオチド結合タンパク質は、細胞内 情報伝達経路に不可欠である。それらは細胞の増殖、分化、生存を制御する。また、 ヒトの癌では頻繁に変異が見られ、特に膵臓癌では85%、大腸癌では40%が変異してい る。変異RAS癌遺伝子にはしばしば、コドン12におけるグリシンからバリンへ の変異(KRASV12)のような点変異があり、その結果、RASタンパ ク質の構成的な活性化が起こる。野生型KRASは生存能力に必要であるらしく、 KRASに対するアンチセンス法は野生型遺伝子と癌遺伝子を区別できないため、 成功していなかった。

rummelkampらは、哺乳類細胞中でsiRNA合成を指示するpSUPER(同グループで最近開 発されたプラスミド)の発現カセットをもつレトロウイルスベクター(pRETROSUPER) を用いた。ヒト膵臓細胞系列CAPAN-1に、KRASV12の変異領域に及 ぶ配列を含むpRETROSUPERベクターを感染させると、KRASV12の発 現が阻害された。この抑制は特異的なもので、ベクター中のTP53配列を使用 してもKRASの減少をひき起こさない。EJ膀胱細胞系列(変異HRASと野生 型KRASが含まれる)に変異KRASベクターを感染させても、 KRASの発現には何の影響もなかった。

らに、著者らはKRASV12の特異的抑制により、腫瘍形成能の喪 失がもたらされることを明らかにした。CAPAN-1細胞でKRASV12の 発現が抑制的に制御されると、細胞はヌードマウスに腫瘍を形成することができない。 一方、対照ベクターに感染したCAPAN-1細胞を導入したマウスは、すべて腫瘍を形成 した。

れでは、ウイルスRNA干渉ベクターは癌研究にどのように役立てることができるだ ろうか。それらは腫瘍形成能をもつ表現型に必要な遺伝的事象の研究や、その表現型 を維持するのに必要な事象の解明に、強力な手段となる。さらに、Brummelkampらに より細胞培養と動物モデルの両方で実現性が示された、siRNAを基盤とした遺伝子治 療も研究が進むだろう。腫瘍の浸透性の悪さ、免疫系によりsiRNAが中和される可能 性、siRNAを介した攻撃を逃れる可能性の克服は、処理しなければならない重要な問 題の1つである。

doi:10.1038/nrc913

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