Research Highlights

その環境を破壊せよ!

Nature Reviews Cancer

2002年9月1日

癌の形成と進行に腫瘍の周囲の環境がきわめて重要な役割をはたすことを支持するデー タが、この数年間に蓄積してきている。ところで今回、Huangらが、基質メタロプロ テイナーゼ‐9(MMP-9)がこの過程の非常に重要な役割をもつ分子であるという直接 の証拠を提出した。Huangらは、Journal of the National Cancer Institute の8月7日号で、ヌードマウスで宿主マクロファージの細胞表面にMMP-9が発現すると、 異種移植した卵巣癌細胞の増殖と浸潤が促進されることを報告している。間質を構成 するこういった成分は、卵巣癌治療の標的になりうる可能性がある。

巣癌細胞と、腫瘍の近くにあってその中に入り込んでいるマクロファージなどの間 質細胞は、両方ともMMP-9を発現している。卵巣癌の進行増殖と腹水の形成は血管新 生に依存し、MMP-9がこの過程の一因になっている。

はHuangらは、MMP-9陽性マクロファージがヒトの卵巣腫瘍の進行増殖に重要な役割 をはたすことをどうやって示したのか。Huangらは、ヒトのMMP-9発現性卵巣腫瘍細胞 (SKOV3.ip1またはHEY-A8)を野生型マウスとMmp9遺伝子欠損マウスに移植し た。MMP-9を発現し、ヒトの卵巣癌細胞を注入したマウスはすべて、腹腔(ふくこう) 腫瘍を発生した。ところがMMP-9の遺伝子をもたないマウスは、腹水が少なかっただ けでなく、産生される腫瘍もずっと少なく、しかも小さかった。

クロファージが組織の中に入り込むためには、細胞外基質に浸透しなければならな い。Huangらが観察したところによると、野生型マウスは、ヒトの腫瘍細胞を注入し ていない場合でさえも、腹腔内に滲出(しんしゅつ)してくるマクロファージの量 がMmp9遺伝子欠損マウスよりも多かった。Mmp9遺伝子欠損マウスに存 在していたマクロファージは、(ヒトの卵巣癌細胞を注入したかどうかにかかわらず) 検出可能なMMP-9活性をもたず、マトリゲル基質で表面を覆ったフィルターへの侵入 能力も低下していた。ヒトの卵巣腫瘍へのマクロファージの侵入には、血管形成がか かわっている。すなわち、野生型マウスで発生した腫瘍は、Mmp9遺伝子欠損 マウスの腫瘍よりも血管の密度が高く、血管内皮増殖因子という血管新生に必要な分 子の発現量も増加していた。ヒトの卵巣腫瘍に見られた腫瘍侵入性マウス細胞の多く は、MMP-9とマクロファージ特異的マーカーF4/80の両方ともが陽性だった。

らに、Mmp9遺伝子欠損マウスに野生型マウス由来の(マクロファージを豊 富に産生する)脾臓細胞を導入すると、SKOV3.ip1またはHEY-A8細胞由来の腹腔腫瘍 の増殖と腹水の形成が著しく増大した。これらの腫瘍では、微小血管の密度がかなり 高かった。

iottaおよびKohnが関連の論説で述べているところによれば、Isaiah Fidlerのグルー プによるこの論文は独創的な研究であり、腫瘍周囲の局所的な環境が「癌細胞の浸潤 や悪性に向かう挙動を刺激したり抑制したりする駆動力」であることを示している。 MMP-9とそれを産生する腹腔マクロファージは、卵巣癌治療の選択的標的になる可能 性がある。第一世代のMMP阻害剤は本酵素の活性部位を標的にしていて、臨床での結 果は期待はずれだった。間質細胞療法は、次世代の論理的治療法への一歩になるかも しれない。

doi:10.1038/nrc891

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