Research Highlights

命取りの組合せ

Nature Reviews Cancer

2002年7月1日

上皮間充織変移(EMT)が、Hrasとトランスフォーミング増殖因子β(Tgf-β)の共 同作用によって生じる細胞系列もある。だが、これが、生体内での腫瘍の進行に見ら れる多段階的な性質にどうかかわっているかは、重大な問題である。

こでAllan BalmainのグループはHrasとTgf-βの濃度変化が腫瘍の進行に及ぼす影 響を、性質のよくわかっている癌細胞系列を用いて研究した。この癌細胞系列は、 Hras1遺伝子に活性な変異をもつ潜在性細胞から生じたものである。今回 Balmainは、Smad2(Tgf-β情報伝達系の下流の標的)とHrasが、初期の乳頭腫から扁 平上皮癌を経て後期の未分化紡錘細胞癌へと進行する間に、個別の閾値を越えること をNature Cell Biologyで報告している。

初にBalmainらは、扁平上皮癌が紡錘細胞癌へ転換するときの分子的変化を研究し た。紡錘細胞内でのTgf-βを介した転写活性は非常に高く、リン酸化されたSmad2が 核に蓄積した。これは、Tgf−β経路がこの細胞で活性化していることを示す。さら に紡錘細胞癌の原発腫瘍細胞では、Smad2はリン酸化されていて細胞質に顕著に局在 していた。これは、分化腫瘍や扁平上皮癌の原発腫瘍細胞では見られない。

mad2は単独で扁平上皮癌への移行に伴う変化を誘導するが、細胞の形の変化は変異 Hrasの濃度の増した場合にのみ起こり、α‐平滑筋アクチン(間充織マーカー)など が発現して、EMTを生じる。

almainらは次に、一度この段階に達した場合にもSmad2によるTgf-β情報伝達が腫瘍 の進行に必要かどうかを調べた。優性阻害型Smad2の発現により、これが実際にそう であることが明らかになった。優性阻害型Smad2を発現した紡錘細胞は上皮的な性質 の強い表現型に戻り、上皮遺伝子発現の多くの特徴を現した。特に、αvβ3インテグ リンの表面での発現が失われ、コラーゲン基質の浸潤も同時になくなった。生体内で は、これは腫瘍生成能がなくなることに関連していた。対照的に、親由来の紡錘細胞 あるいは優性活性型Smad2を発現する紡錘細胞は腫瘍を生じた。優性活性型Smad2によ り生じた腫瘍は特に浸潤性であった。優性活性型Smad2の発現は、標的組織への遊走 とそれに続く肺転移の増加を促進する。

瘍の転移能は、癌患者の生死を決める主要な要因であるので、HrasとTgf-βの閾値 の違い(EMTと浸潤性の誘導には中間濃度のSmad2がHrasと同時に作用し、転移にはよ り高濃度のSmad2が必要)が転移にとって重大であるというこれらの発見は、腫瘍の 拡散を阻止する低分子阻害薬の設計条件を与えるものである。

doi:10.1038/nrc853

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