Research Highlights

融合の威力

Nature Reviews Cancer

2002年7月1日

多くの白血病は染色体転座と関連しているが、生じた融合タンパク質が細胞を形質転 換する方法はまだよくわかっていない。たとえば、急性骨髄性白血病(AML)に関連 するAML1-ETO融合タンパク質は、未知の機構により造血系前駆細胞を不死化する。 Bryan Linggiらは、AML1-ETOはARF癌抑制因子の転写を抑制するとNature Medicine誌7月号に報告している。

(8;21)転座はAMLの12〜15%に関連しており、AML1のDNA結合ドメインと ETO(eight-twenty-one)補助リプレッサーを融合させる。この融合タンパク質は通 常のAML1と同じDNA配列に結合するが、転写の活性化因子ではなく抑制因子として機 能する。AML1-ETOの発現は培養中の一次骨髄前駆細胞の寿命を延長したの で、Linggiらはこれがp53チェックポイント経路の構成成分に影響を与えるかどうか を研究した。

inggiらは出発点として、さまざまな遺伝子プロモーター中にAML1結合部位を探し た。TP53遺伝子(p53の遺伝子)はそれ自身はAML1結合部位をもたないが、 CDKN2A(ヒトではp14、マウスではp19ともいい、ARFの遺伝子)プロモーター はAML1結合部位を8個もつ。ARFはMDM2に拮抗してp53を安定化し、ARFを欠くとp53が 仲介する増殖停止とアポトーシスに障害がみられた。

inggiらは、培養細胞におけるAML1の発現がARF転写産物の転写を活性化し、 繊維芽細胞の老化も誘導することを見い出した。一方AML1-ETOの発現は、 AML1が仲介するARF転写プロモーターの誘導を阻害し、内在性のARF転写産物の発現を 抑制し、不死化を引き起こす。INK4a(p16ともいう)はARF転写産物と同じ遺伝子座 にあるが、AML1結合部位を欠く別個のプロモーターから転写される。Linggiらの観察 では、AML1-ETOを発現している細胞内のINK4A量に著しい相違はなかったの で、この融合タンパク質による抑制はARFに特異的だと示唆される。

かし、ヒト白血病細胞でARF転写産物の発現は減少するのだろうか。t(8;21)関連 AML患者の2つの集団から骨髄および血液試料を採取し、そのARF転写産物の発現を実 時間PCRにより個々に調べた。これらの細胞では、他のタイプの白血病細胞よりも ARF転写産物のmRNAの発現が著しく少ないことが見いだされた。ARF転写産物の発現が 抑制されていることから、これらの癌細胞内でTP53が変異していないことが 理解できる。Linggiらは、ARFが、AMLの機能に影響する他の癌関連転座によっても抑 制されることを示唆している。

doi:10.1038/nrc858

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