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幸先のよいスタート

Nature Reviews Cancer

2002年7月1日

癌ゲノム計画は、癌の原因遺伝子を新たに同定する目的で1999年にMike Stratton、 Richard Wooster、Andy Futrealによって着手された。彼らがNatureに寄せた報 告によると、ヒトにおける新たな癌遺伝子発見に向け、前途有望なスタートを切っ た。

ノムの大規模スクリーニングの第一段階として、Strattonらは癌の調節解除として 知られる経路に焦点を合わせた。RAS-RAF-MEK-ERK経路にかかわるBRAFは、解析 の第一候補である。RASはヒトの癌の15%程度で変異しているからだ。15個の癌細胞系 列から単離されたゲノムDNAより、遺伝子が配列決定された。このうちの3個(黒色腫 1個、非小細胞肺癌2個)に一塩基置換が含まれていることが明らかになった。この予 備調査の結果を受けて、530個の癌細胞系列にスクリーニングを広げたところ、さま ざまな種類の癌43個がBRAFに変異をもつことがわかった。変異はもっぱらエキソ ン11と15に見られ、原発癌や短期間培養細胞の378個について行ったこれら2つのエキ ソンの解析により、BRAFはヒト癌では頻繁に変異していることが裏づけられた。

RAFはさまざまな種類の癌で変異しているが、黒色腫での変異が最も頻繁であ る。黒色腫癌細胞系列の59%、黒色腫原発癌の66%が変異をもつとわかった。興味深い ことに、変異は黒色腫の主要原因である紫外線(UV)照射には関連しない。この変異 は、UV光で誘導されるチミン二量体形成に続いて起こるC→T転位とはまったく違うか らだ。その代わり、黒色腫の特異性はメラニン細胞の生理機構に関連しているように 見える。α‐メラニン細胞刺激ホルモンは、BRAF-ERKキナーゼカスケードを通じて作 用する増殖信号を開始するからである。

異はすべて、キナーゼドメインの活性化領域内部か隣接するところに見られる。頻 出する変異のいくつか(V599E、L596E、G463V、G468A)の解析により、変異によって BRAFのキナーゼ活性が増し、結果としてERKが活性化することが立証された。

かし、癌の中の活性な変異をもつ遺伝子を同定しても、癌遺伝子とはみなせない。 その変異が、癌の原因になりえる必要がある。BRAF変異体をNIH-3T3細胞に導入 して、野生型BRAFに比べ、悪性転換効率が70〜138倍に増加することが示され た。これらの導入細胞は、ヌードマウスの腫瘍増殖も刺激できた。

のように、癌ゲノム計画はすでに、新たな癌遺伝子と癌抑制遺伝子を同定するとい うゴールに向かって前進している。初期に気づかなければ治療が難しいことで悪名高 い癌である黒色腫におけるBRAFの変異頻度は、治療の標的として重要である。キ ナーゼ阻害薬の開発もまもなくそれに続くであろう。

doi:10.1038/fake849

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