Research Highlights

死をよぶ組合せ

Nature Reviews Cancer

2003年9月1日

p53はアポトーシスの前段階に作用するタンパク質で、DNA損傷に応答した腫瘍細胞がプログラム細胞死を起こすのに必要である。一方、I型インターフェロン(IFN-αとIFN-β)は、抗ウイルス免疫応答に関与することが知られている。IFN-α/βはヒトの特定の種類の癌の治療に使われ、好成績が得られているにもかかわらず、p53とIFN-α/βの関連はわかっていない。マウス胚繊維芽細胞(MEF)と肝癌細胞系HepG2細胞をIFN-α/βで処理すると、IFN- α/βの投与量に依存してp53タンパク質の産生量が増加することがわかった。

 IFN処理はp53タンパク質の半減期には影響しなかった。また、p53タンパク質の分解もIFN処理によって増加しない。IFN-βはMEFによるTrp53mRNA発現を誘導したので、 Trp53遺伝子の転写が増加すると考えられる。マウスとヒトのTP53遺伝子には、プロモーター領域または最初のイントロンにインターフェロン応答配列(IFN-stimulated response element、ISREと略す)が存在することが明らかにされ ている。ISREは、IFN調節因子9(IRF9)を含有するISGF3という転写因子複合体によって活性化されることが知られている。

 Irf9-/-MEFではIFN-βに応答したp53タンパク質の誘導は観察されなかった。 IFN-βで細胞を刺激してもp53タンパク質のセリンのリン酸化とその後の活性化は誘導されず、p53の標的遺伝子群の誘導にはまったく影響が見られなかった。

 この結果から、I型IFNはp53を活性化しないが、p53タンパク質の産生量を増加させることによりp53を活性化するストレス刺激に対する細胞の感受性を増大させるのではないか、と論文著者のTakaokaらは提唱している。続いてTakaokaらは、IFN情報伝達経路とp53経路が相互に作用し合って腫瘍とウイルスの両方に対する防御機構に影響を及ぼすことを示した。 ヒトパピローマウイルス(HPV)タンパク質E6はp53の分解を誘導する。

 また、HRASなどのもう1つの腫瘍タンパク質と共同作用して初代MEFの悪性形質転換を誘導することができる。ところが、この系にIFN-βを加えると、p53タンパク質の量が元の状態に回復し、悪性形質転換されるコロニーの数が大幅に減少した。これと同様に、IFN-βは、アデノウイルスE1A腫瘍タンパク質を発現するMEFのX線照射に応答したp53依存性アポトーシスを増加させた。抗ウイルス応答に関しては、種々のウイルスに感染させたMEFおよびHepG2細胞ではp53タンパク質のリン酸化の顕著な増加が見られた。p53タンパク質が媒介するウイルス感染細胞のアポトーシスは、IFN-α/β受容体1(IFNAR1)の欠損したMEFではかなり抑制されていたが、p53タンパク質のリン酸化は依然として起こっていた。

 この結果から、IFNを介した情報伝達はp53の活性化ではなく誘導によるp53応答の増強に必要だとする説が支持される。水疱性口内炎ウイルスに感染したp53欠損MEFは野生 型MEFよりもウイルス産生量が高かったので、(IFN-α/β情報伝達により促進される)p53依存性アポトーシスはウイルス複製の制御に重要だと考えられる。

 Takaoka らの研究から得られた結果は、癌の治療に重大な影響を及ぼしかねない。この結果によれば、IFNで処理した細胞はDNA損傷作用を有する5‐フルオロウラシル(5-FU)などの化学療法剤に対する感受性が上昇しているはずであり、投与する化学療法剤の量を減らせるからである。この予想は当たっていた。単独で最小限の効果を与える量の5-FUを投与した場合にHepG2細胞が死ぬ比率が、IFN-βの併用によって増加することが示されたのである。

doi:10.1038/nrc1176

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