Research Highlights

1か月のあの時期

Nature Reviews Cancer

2003年10月1日

我々女性がどんなに拒みたくても、感情的に過敏になる「月の時期」というものが必 ずある。Ann F. ChambersらがCancer Research誌に報告した研究によると、 月経周期に影響されるのは感情だけではなく、癌細胞の転移能もまた、影響される。 Chambersらは、ほとんどの細胞が肺に入り、残りは漏れ出て散り散りになるだろうという予想のもとに、ホルモン非依存性B16F10黒色腫細胞をマウス尾静脈に注射した。マウスへの注射は性周期の2つの段階、エストロゲンのレベルが高い発情前期と、プロゲステロンのレベルが高い発情後期で行った。24日後、予想どおり転移腫瘍の範囲がマウス両群で観察され、肺転移の数や大きさに有意な差はなかった。しかし肺外の転移を調べたところ、驚くような差が見られた。発情後期に注射したマウスでは7日後の16.7%に卵巣微小転移があり、24日後では31.6%に顕著な卵巣転移があったが、発情前期に注射したマウスでは転移はなかった。両群の卵巣以外の肺外転移発生率には、統計的に有意な差はなかった。そのため、性周期の段階ごとのホルモン環境の変動が、腫瘍細胞の循環に異なる影響を及ぼすように思える。

 B16F10細胞はホルモン非依存性なので、これらの効果は宿主のホルモン感受性に起因するらしい。しかし、血流に癌細胞を加える時期がなぜ転移形成を決める要因となるのだろうか。卵巣への血流は発情後期には増加し、発情前期には減少する。つまり卵巣へ届く癌細胞の量に差異があることを意味する。あるいは、ホルモン誘導性遺伝子発現のため、性周期の段階によって卵巣内での増殖を補助する環境が異なるのかもしれない。どちらの説も徹底的な調査が必要である。

 この研究は明らかに乳癌患者に重大な関係がある。外科手術の時期が転移に、そして究極的には生存に著しく影響しうるからだ。以前の臨床研究の結果は男女を区別しないものであり、論争の的になっている。このモデル系は臨床患者の変更の必要性を決定するのに役立てるべきである。

doi:10.1038/nrc1198

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