Research Highlights

複合型の災害

Nature Reviews Cancer

2003年11月1日

CDC42 GTPアーゼを活性型のGTP結合タンパク質の状態にしておく変異は発癌性で、この活性型CDC42タンパク質をヌードマウスに注入すると、腫瘍が形成される。しかし、 CDC42の機能とされるアクチン細胞骨格を調節する能力が腫瘍形成に関連するとは思えず、この機構は不明である。今回、Richard CerioneらがCell誌に寄せた報告によると、活性型のCDC42はc-CBLユビキチンリガーゼをCOOL1タンパク質との複合体に閉じこめるので、c-CBLは上皮増殖因子受容体(EGFR)をユビキチン化して発現を抑制することができなくなる。

COOL1 は、2種のタンパク質間の相互作用を検出するツーハイブリッド実験でCDC42標的タンパク質のPAKを用いて同定されたので、最初はCDC42経路に位置するタンパク質だと考えられた。その後に行ったツーハイブリッド実験と免疫沈降実験では、COOL1 はCBLBタンパク質に結合した。Cerioneらはさらに解析を続行し、COOL1がc-CBLにも結合することを見いだした。また、c-CBLと COOL1はCDC42に結合したが、結合できるのは構成的活性型変異をもつCDC42だけだった。EGFはCDC42を活性化することができるが、 CerioneらによるとEGFの添加はこの3種類のタンパク質による複合体の形成を促進した。

この複合体の形成は、CDC42が正常細胞に腫瘍細胞の形質を賦与する能力に不可欠のようだ。 CDC42のRHOタンパク質挿入領域を構成する13個のアミノ酸を除去すると、 CDC42とCOOL1の相互作用が抑制され、悪性形質転換の信頼できる指標になる軟寒天培地でのCDC42誘導性コロニー形成が減少したからである。 CDC42に結合できないCOOL1変異タンパク質と、COOL1に結合できないc-CBL変異タンパク質も、軟寒天培地でのコロニー形成および低血清培地での繊維芽細胞の増殖を誘導することができなかった。では、この複合体はどうやって悪性形質転換を開始させるのだろうか。c-CBLはEGFRの発現を抑えるユビキチンリガーゼなので、c-CBLがCDC42と相互作用するとこの能力が変わるのかもしれない。実際、活性型CDC42が発現すると、c- CBLによるEGFRのユビキチン化が阻害され、c-CBLのユビキチンリガーゼ活性を刺激するc-CBLのEGF依存性リン酸化が妨げられた。 Cerioneらはウェスタンブロット解析を行い、EGFを添加するとふつうは5〜45分以内にEGFRの発現が抑制されるが、活性型CDC42も発現している細胞ではそのようにならず、発現量は低いが6時間後もEGFRが検出されることを確認した。

したがってCDC42は、c-CBLを隔離してそれがEGFRを分解するのを妨げることにより、悪性形質転換を促進するようだ。この機能により、分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ(MAPK)カスケードを通して作動するEGF情報伝達経路が維持される。EGFRまたはMAPKキナーゼ(MEK)の阻害剤でこの経路を阻害すると、活性型CDC42をもつ細胞の低血清培地での増殖が妨げられ、細胞の悪性形質転換を示す形態が失われる。乳癌や神経膠芽細胞腫(グリオブラストーマ:脳腫瘍の1種で、悪性度が高い)では、EGFRの発現が増大していることが多い。遺伝子増幅がこのEGFR発現を増加させる機構の1つかもしれないが、活性型CDC42タンパク質を生じる発癌性変異ももう1つの機構になっている可能性がある。

doi:10.1038/nrc1224

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