Research Highlights

悪い影響

Nature Reviews Cancer

2003年12月1日

自己流にやってきた似た者どうしの集団では、生活を変化させるのに部外者の影響が必要なことがよくある。これと同様に、結腸癌が浸潤性になるには、周囲の環境から伝わる情報が細胞を刺激する必要がある。今回、Ancy Leroyらの新しい研究から、腸に寄生する細菌が結腸腫瘍細胞の浸潤性の誘発に寄与する外部環境要因の1つだという証拠が得られた。

Leroyらは、Listeria monocytogenes(リステリア菌)という腸管病原菌の存在下でヒト結腸癌細胞を培養すると、I型コラーゲンのゲルに浸潤する細胞の能力が増すことを見いだした。細菌培養液の上澄みを濾過した液を入れて癌細胞を培養した場合も同じ結果が得られたので、この浸潤性の増大は可溶性因子の生産によって起こると考えられた。癌細胞の浸潤性を促進する因子を生産する能力をもつ細菌は、L. monocytogenesに限らず、Escherichia coli(大腸菌)、Salmonella typhimurium(ネズミチフス菌)および結腸腫瘍由来の生体組織から単離した細菌の培養から得たならし培地で結腸癌細胞を培養した場合も、浸潤性を刺激する効果がみられた。

L. monocytogenesが生産する浸潤性促進因子を同定するため、Leroyらは細菌培養液上澄みから浸潤性を刺激する能力を保持する可溶性画分を分離した。これが、浸潤性を促進する性質をもつペプチドの同定に結びついた。このペプチドは13個のアミノ酸からなり、乳製品の主要成分であるウシβ‐カゼインタンパク質の一部分にあたる。Leroyらは、β‐カゼイン由来のもっと大きなペプチドからこの浸潤性促進因子をつくるには、細菌のMp1というメタロプロテアーゼが必要なことを発見した。この細菌酵素に加えて、浸潤性の検査に利用したI型コラーゲンに付随するセリンプロテアーゼが浸潤性促進ペプチドの生産に必要なことも示された。

この過程に必要な因子のすべてが生体内に存在することを証明するため、Leroyらは、浸潤性促進因子の部分を含有する33個のアミノ酸からなるβ‐カゼインペプチドの存在下で結腸癌患者由来の腫瘍組織を培養した。コラーゲンゲルの非存在下で、また、実験系に細菌を加えなくても、結腸癌組織は13個のアミノ酸からなる浸潤性促進ペプチドを生成することができた。ところが、この腫瘍標本に抗生物質を加えると、浸潤性促進因子の生産が阻止された。このことから、宿主のセリンプロテアーゼと、β‐カゼインペプチドの切断に必要な細菌の両方が結腸癌患者の腸管に存在すると考えられる。

Leroyらはまた、浸潤性促進ペプチドが結腸腫瘍細胞の運動性の増加を刺激するしくみを調べた。そして、優性阻害型CDC42タンパク質または構成的活性型RHOAタンパク質が発現すると、β‐カゼイン由来浸潤性促進ペプチドに応答した浸潤が阻止されることを見いだした。したがって、細菌の酵素と宿主の酵素の共同作用で生じる浸潤性促進ペプチドは、RHOファミリーのGTPアーゼ群の活性を調節して細胞の運動性の増加を刺激すると考えられる。

腸内の微生物相と結腸癌の発生とのつながりはかなり前から証明されてきたが、この病気において微生物が果たす正確な役割はほとんどわかっていない。Leroyらの研究によって、腸内の細菌が腫瘍細胞の浸潤性を誘発する機構が示され、細菌や食物中の因子がヒトの結腸癌の進行に影響を及ぼすしくみを理解する新しい手がかりが得られたことになる。

doi:10.1038/nrc1249

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度