Research Highlights

命中

Nature Reviews Cancer

2004年5月1日

ひとつのタンパク質に特異的に作用する阻害因子の開発は、かなり困難な作業になるが、インスリン様増殖因子受容体1 (IGF1R)を狙い、見事に命中させた研究者がいる。Cancer CellでHofmannらおよびKungらは、IGF1R阻害因子には選択性があり、抗腫瘍活性が大きいと報告している。

インスリン様増殖因子とその受容体は、以前より癌にまつわるいくつかのプロセス(増殖、生存、転移および血管形成)に関わるとされてきた。しかし、正常組織に幅広く発現し、関連性の高いインスリン受容体を交差阻害する可能性もあるIGF1Rを癌治療のターゲットにするには不安があった。Hofmannらは、化合物アーカイブの高速処理スクリーニングを実施し、IGF1Rを選択的に阻害するピロロ[2,3-d]ピリミジン類の低分子を同定した。この化合物類の力価および選択性を最適化し、これをキナーゼおよび細胞のin vitroアッセイにより評価して、最も効果の高いのはNVP-AEW541であることを明らかにした。なかでも重要なのは、細胞レベルで、この阻害因子のIGF1R に対する力価が、インスリン受容体に対する力価の27倍もあることである。

Hofmann らはまず、NVP-AEW541がIGF1を介するMCF-7細胞の生存を阻害し、足場不在下での増殖を妨げることを明らかにした。それはまた、NWT- 21細胞の増殖をも阻害した。このことは、経路の構成要素AKTがもはやリン酸化しておらず、生存タンパク質として不活性であることから、IGF1Rキナーゼおよび下流のシグナル伝達の阻害によって生じることがわかった。ヌードマウスの皮下にNWT-21細胞を増殖させ、これをin vivoモデルとしてNVP-AEW541を経口投与したところ、腫瘍増殖が阻害された。このため、NVP-AEW541は、今後さらに研究を重ねる意味のある強力かつ特異的な抗癌剤であると思われる。

Kung らはまず、細胞系および初代培養細胞の双方において、IGF1Rが血液学的腫瘍および固形腫瘍に特異的に発現することを明らかにした。次に、いくつかの戦略(中和抗体、競合的ペプチド拮抗因子、NVP-AEW541と類似した低分子阻害因子NVP-ADW742)により、受容体阻害作用を検討した。この3 つの戦略はいずれも、血清刺激した腫瘍細胞の増殖を同程度に抑制したが、多発性骨髄腫(MM)細胞は特に感受性が高かった。そこでKungらは、MMに的を絞り、同所性異種移植モデルマウスを作成した。NVP-ADW742は、腫瘍の増殖を有意に抑制し、マウスの生存期間が延長した。

グローバルな遺伝子発現プロファイリングからは、IGF1Rを阻害すると、細胞周期の進行、増殖および生存に関与する遺伝子発現の低下など多面性の高い反応が生じることが明らかになった。これが、ほかの治療には抵抗性を示すものも含め、種々の腫瘍に対して阻害因子が有効である理由となっている。実際、in vitroでもin vivo でも、ドキソルビシンおよびメルファランといったほかの抗癌剤に対する腫瘍細胞の感受性が、NVP-ADW742により高められた。

こうして、前臨床モデルでは、IGF1R阻害因子は力価が高く、選択的で効果的な抗癌剤であることが明らかになった。これをさらに追究することが、癌治療に有用であるのは間違いない。

doi:10.1038/nrc1352

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