Research Highlights

必要なものの積み重ね

Nature Reviews Cancer

2004年6月1日

慢性骨髄性白血病(CML)およびB細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)はいずれも、BCR-ABL1癌遺伝子によって引き起こされる。しかし、慢性期CMLにはABLチロシンキナーゼ阻害因子であるイマチニブ(グリベック)が有効であっても、BCR-ABL1陽性B-ALLにはほとんど効果がない。 Yiguo Huらは現在、その理由が、B-ALLは(CMLとは異なり)発生する際にSRCキナーゼの活性化にも依存していることにあるとし、B-ALLにはイマチニブとSRCキナーゼ阻害因子との併用が効果的であると報告している。

BCR-ABL1は、(CMLが由来する)骨髄性細胞のSRCキナーゼを活性化するが、Huらは、BCR-ABL1が(B-ALLが由来する)前駆Bリンパ系細胞のSRCキナーゼをも活性化することを明らかにした。造血細胞に発現する SRCキナーゼは8種類あるが、対照マウスの正常な末梢血白血球と比較した場合に、BCR-ABL1誘発性B-ALLマウス細胞で際立って活性化されていたのは3種類(Lyn, FgrおよびHck)のみであった。

では、LYN, FGRおよびHCKは、BCR-ABL1による白血病発生に関与しているのだろうか。Huらは過去に、Bcr-Abl1導入骨髄を操作して、CML発症モデルマウスとB-ALL発症モデルマウスとを作製している。この2種類のモデルマウスのLyn, FgrおよびHck を3つともノックアウトしたところ、B-ALLの発生にはSRCキナーゼが必要であるが、CMLには必要でないことが示された。3つのSRCキナーゼの1つまたは2つのみをノックアウトしたことで、BCR-ABL1によるB-ALLの誘発に必要なSRCキナーゼの組み合わせは、3つすべでではなく2つであることがわかった。そうすると、マウスBリンパ系細胞のBCR-ABL1シグナル伝達経路におけるLyn, FgrおよびHckの機能は、重複しているか、または一部余っているはずである。

そこでHuらは、SRCキナーゼの阻害因子がB-ALLの治療に、単独でもイマチニブとの併用でも効果を示すかどうかを検証した。SRCキナーゼ阻害因子CGP76030は、BCR-ABL1陽性B細胞、すなわちマウスB-ALL細胞の Lyn, FgrおよびHckを選択的に阻害したほか、この細胞の増殖および生存をも阻害した。BCR-ABL1誘発性B-ALLをもつマウスをイマチニブまたは CGP76030の単剤で処理すると、このマウスの生存率は高まり、両剤を併用すると、さらに大きな効果が得られた。このマウスから単離した白血病細胞では、イマチニブによるBCR-ABL1 の阻害およびCGP76030によるSRCキナーゼの阻害が確認された。ところが、BCR-ABL1誘発性CMLマウスにCGP76030を投与しても、イマチニブを単独投与したときほどの生存率改善はみられなかった。

白血病の慢性期から急性期への遷移に関与しているシグナル伝達経路をさらに理解すれば、効果的な併用療法の開発に役立つ。

doi:10.1038/nrc1373

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