Research Highlights

抗生剤襲来再び

Nature Reviews Cancer

2004年6月1日

現在、数種類の癌の治療について、キナーゼTORの免疫抑制阻害因子であるラパマイシンの臨床試験が実施されているが、この薬物が腫瘍増殖を予防する機序は、はっきりとはわかっていない。William SellersらはNature Medicine 6月号で、ラパマイシン類縁体は、2つの独立した経路(ミトコンドリアを介するアポトーシスの誘発と、転写因子Hif-1のダウンレギュレーションによる増殖の阻害)により、マウス前立腺腫瘍の増殖を阻害すると報告している。

Torキナーゼ活性は、発癌性のあるセリン/スレオニンキナーゼAktによって調節される。マウス腹側前立腺を標的にすると、トランスジェニックAktは前立腺上皮内新生物の発生を促進する。Sellersらは、ラパマイシン誘導体 RAD001を経口投与して、このマウスのTor活性を完全に阻害すると、前立腺上皮の管腔内組織にある細胞が正常な形態に戻ることを示した。 Sellersらは、消退する腫瘍には、アポトーシス細胞が多いだけでなく、同時に増殖が阻害されていると記載している。

では、Torを阻害すると、どのようにしてアポトーシスの誘発と増殖の阻害が同時に起こるのだろうか。Sellersらは、トランスジェニックAktマウスと、腹側前立腺にBCL2 を特異的に発現するマウスとを交配することによって、この問題に取り組んだ。ラパマイシン類縁体で処理したあとに、BCL2が細胞のアポトーシス死を妨げたことから、この腫瘍モデルでは、ラパマイシンが効果を発揮する上で、ミトコンドリアのアポトーシス経路が重要であることが明らかになった。しかし、 BCL2の発現によって、ラパマイシンによる増殖阻害が覆ることはなかった。

Aktを介する増殖を促進しているのは、どの遺伝子だろうか。Sellersらは、マイクロアレイとコンピュータをベースにした一連の複雑な技術を用いて、低酸素応答性タンパク質Hif-1 が、Aktを発現する腫瘍でもAkt/BCL2を発現する腫瘍でもアップレギュレートされていること、RAD001で処理したマウスではその活性が抑制されることを明らかにした。Hif-1 とTorとAktとのつながりについては既報であるが、TorがHif-1 活性を調節する機序は不明なままである。

このマウスモデルのデータから、BCL2を過剰発現するか、またはTORとは無関係にHIF-1 を活性化させるヒト前立腺癌細胞は、TOR阻害因子に耐性をもつ可能性があることがわかる。さらに重要なことには、現在、進行性前立腺癌患者を対象に実施されているRAD001 の評価は、腫瘍遺伝子型の対応分析を実施しない限り、有用とはならないものと思われる。

doi:10.1038/nrc1385

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