Research Highlights

お腹いっぱい

Nature Reviews Cancer

2004年7月1日

紡錘体チェックポイントは、細胞分裂時の姉妹染色分体の分離が、全染色体が正しく紡錘体に付着した場合にのみ起こるように作用している。癌細胞のなかにはこのチェックポイントの効率が低いものがあり、細胞が染色体を獲得したり喪失したりする速度が増し、腫瘍は否応なく進行する。しかし、Don Clevelandらは、このチェックポイントが完全に消失すると、有利どころか癌細胞にとって致命的であることを明らかにした。

Clevelandらは、HeLa子宮頸癌細胞およびT98G膠芽腫細胞に、BUBR1またはMAD2のいずれか(紡錘体チェックポイントの必須成分)に対する短い二本鎖のRNAs (siRNAs)を導入した。これにより、上の遺伝子によってコードされたタンパク質が最大90%低下したが、ほかのチェックポイントタンパク質には何ら影響がなかった。そこで、正常細胞の紡錘体チェックポイントを活性化して細胞質分裂を妨げる微小管脱重合剤、コルセミドでこの細胞を処理した。擬似導入したHeLaおよびT98G細胞は細胞分裂を停止し、サイクリンB1および高リン酸化BUBR1の値が増大(チェックポイントが機能していることを示す)した。これに対して、BUBR1またはMAD2 のsiRNAを導入した細胞には、チェックポイントが活動している兆候がまったくみられず、続いて一連のDNA複製の段階へ移った。細胞質分裂が遮断されたため、染色体が多倍体化した巨細胞が現れた。

Clevelandらはそこで、細胞質分裂させながら紡錘体チェックポイントを遮断することで、その作用を検討した。BUBR1またはMAD2のsiRNA を発現するHeLa細胞の染色体内容は、導入から72時間後には大幅に多様化し、擬似導入した対照とは著明に異なることが判明した。染色体数が増加した細胞のほか、大幅に減少した細胞も多く、チェックポイントの不活化が染色体の獲得にも喪失にもつながることがわかる。

紡錘体チェックポイントが消失すると、癌細胞の増殖および生存能力にどう影響するのだろうか。Clevelandらは、BUBR1または MAD2 のsiRNA を導入した後のHeLa細胞およびT98G細胞のコロニー形成を分析した。9日経っても、siRNA導入細胞にコロニー形成は認められなかった。細胞生存能力を分析したところ、siRNA導入4日目から細胞死が始まり、6日後に生存している細胞はなかった。したがって、紡錘体チェックポイントを廃止すると、これらの細胞は最終的に死に至る。しかし、siRNA導入したHeLa細胞で細胞質分裂を遮断すると、細胞死は起こらず、巨細胞となって生き続ける。このことから、紡錘体チェックポイントがない細胞が死に至る理由のひとつに、分裂時の染色体消失(生存に不可欠な遺伝子が消失するものと思われる)があり、細胞分裂が妨害されれば、それが起こらない。

HeLa細胞およびT98G細胞のほか、BUBR1またはMAD2の発現が低下すると、2種類の大腸癌細胞系でも細胞死が生じたことから、さまざまな種類の腫瘍について、紡錘体チェックポイントの活性を当てにすることができそうだ。これは抗癌治療法としての可能性を暗示するもので、チェックポイントタンパク質を減少させる、またはその活性を低下させる因子を癌標的治療に利用できることを示している。

doi:10.1038/nrc1395

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