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Nature Reviews Cancer

2004年7月1日

腫瘍、特に転移癌の低酸素領域は、化学療法にも放射線療法にも抵抗性を示すことで知られる。Jiwu Weiらは、通常は腫瘍の血管形成に寄与している胚内皮前駆細胞(EPC)によって、細胞傷害性の遺伝子産物を転移性肺癌の低酸素領域へ特異的に送達する策を考案した。

EPC は骨髄で生じ、血管内皮増殖因子(VEGF)をはじめとする諸因子によって血管新生活動が起こっている部位に動員される。この細胞が腫瘍血管系の増殖に寄与することはわかっているため、Weiらは、この細胞を用いて低酸素性腫瘍に治療物質を送達できるかどうかを検討した。Weiらは特に、成熟マウスの EPCではなく、培養による増殖が容易で、遺伝子操作を行いやすいマウス胚から単離したEPCを使用した。しかも、胚のEPCは主要組織適合遺伝子複合体クラスI分子を発現しないため、宿主の免疫機構によって拒絶されない。

Weiらは、この細胞をマウスの尾静脈に注入すると、その大部分が骨肉腫または Lewis肺癌の移植によって発生した転移性肺癌に集中するが、転移性肝癌および転移性腎癌にも認められることを明らかにした。EPCの大部分は、血管があまり形成されていない転移癌へ向かう。このような癌は低酸素性でVEGFの発現レベルが高い。だとすれば、EPCを用いて細胞傷害性の「自殺」遺伝子をこの転移癌に送達することができるのではないか。Weiらは、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼと融合する酵母のシトシンデアミナーゼ遺伝子を EPCsに安定的に導入した。この融合酵素は、プロドラッグの5-フルシトシン(5-FC)を細胞傷害性化合物5-フルオロウラシル(5-FU)に変換し、これが間質腔に拡散して、周囲の腫瘍細胞に対して細胞傷害作用をもたらす。

Weiらは、複数の転移性肺癌が樹立したマウスに、自殺遺伝子を有するEPCおよび 5-FCによる治療を施すと、対照と比べて生存期間が有意に延長することを突き止めた。転移性肺癌全体の最大90%はこの細胞の標的となり、しかもこの治療による毒性作用はなく、胎児性腫瘍が引き起こされることもなかった。しかし結局、このマウスは、非低酸素性で十分に血管が形成され、EPCsが効率的に通過しない転移癌および別の臓器に生じた転移癌によって死亡した。このほか、腫瘍細胞をすぐに殺すのではない(EPCsが腫瘍血管に取り込まれ、自殺遺伝子を発現し、バイスタンダー細胞を殺すまでには時間がかかる)というのも問題である。しかも、自殺遺伝子を運搬しない対照EPCsは、実際には腫瘍の血管形成および増殖を促進する。このため、今後臨床で用いるには、この細胞傷害系が確実にどのEPCでも活性化するよう、安全措置をとることがきわめて重要になってくる。

doi:10.1038/nrc1394

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