Research Highlights

独特な始まり方

Nature Reviews Cancer

2004年8月1日

網膜芽細胞腫抑制因子(RB)は、細胞周期を調節する重要な因子であり、これが消失すると、細胞分裂が停止せずアポトーシスが起こる組織は多い。こうした知見から、網膜芽細胞腫の腫瘍「起始細胞」は、抗アポトーシス変異を獲得したもののひとつではないかとの考えが広まった。しかし、2 つのグループがそれぞれに研究を行い、いずれも、マウスに関しては、この腫瘍の起始細胞は元来、Rb消失の作用に抵抗性があるという意外な結論に到達している。

Rod BremnerらおよびTyler Jacksらは、Rb を消失させ、網膜発生が破綻して腫瘍形成に至るようすを詳しく検討した。あらゆる組織におけるRb の両アレル消失は致死的であり、Rb+/-マウスには網膜腫瘍ではなく下垂体腫瘍が生じるため、網膜芽細胞腫瘍のマウスモデルを作製するのは困難である。これまでのマウスモデルから得られた証拠は、RB様タンパク質p107によって網膜におけるRb の消失が補えることを示していた。この2グループはこのため、網膜におけるRBの機能が特異的に欠失したマウスを作成し、Rb-様遺伝子p107またはp130のいずれかが発現しないマウスと交配した。

網膜細胞の発生段階は基本的に3つある。前駆細胞の増大、有糸分裂後網膜前駆細胞7種への分化および最終分化である。Bremnerらは、周辺部網膜前駆細胞で条件的にRb機能が喪失した( Cre/Rblox/lox)マウスにおける網膜細胞の運命を明らかにし、このマウスとp107-/-マウスとを交配した。Rb-/-p107-/- マウスには網膜芽細胞腫が生じた。染色法によりマウスの胚および新生児の網膜にある種々前駆細胞をみたところ、7種すべての前駆細胞が認められ、Rb が消失しても分化が損なわれないことがわかった。変異マウスでは、特に網膜前駆細胞が最終分化する発生時点で、アポトーシスもS期細胞数も多かった。

Jacksらも、Rb が条件的に欠失した網膜を検討している。ある方法を実施して網膜細胞、神経系細胞およびその他組織の細胞でRb機能を破綻(Rbモザイク)させ、このマウスをp107-/- マウスまたはp130-/-マウスと交配した。Rbモザイクp130-/-マウスには、組織学的にヒト腫瘍ときわめて類似した網膜芽細胞腫が生じ、p107と同じく p130がマウスのRb消失を補うことがわかった。また別の方法でJacksらは、Bremnerらと同じ Cre/Rblox/lox マウスを用いて、Rbのみ不在下での正確な網膜細胞の運命を明らかにした。Jacksらの結果もBremnerらとほぼ同じで、アポトーシス細胞およびS期細胞が主として、最終分化細胞と一致しているという結論に達している。Rbが消失すると最終分化網膜細胞がアポトーシスを起こしやすくなるとすれば、生き延びて腫瘍を形成するのはどの細胞なのだろうか。

両研究グループはともに、最終分化細胞4種(神経節細胞、桿体細胞、錐体細胞および双極細胞)は消失していたが、水平細胞、ミュラーグリア細胞およびアマクリン細胞の中には生き延びているものがあったことを突き止めている。アマクリン細胞が生き延びることから、Rb の消失によってRb-/-p107-/-マウスまたはRb-/-p130-/- マウスに生じる網膜芽細胞腫はアマクリン細胞に多いものと思われる。

それにしてもなぜ、アマクリン細胞は生き延びるのに、ほかの細胞は生き延びないのだろうか。両研究グループはともに、アマクリン細胞はほかの細胞に比べてRb消失に抵抗性があり、最終分化までの複製を何度も潜り抜けると結論づけている。以上のことを考えると、網膜芽細胞腫の起始細胞は、本質的にアポトーシス抵抗性があり、限りはあるものの分裂能が拡大した分化前駆細胞のプールから生じる。この起始細胞が、さらに変異して最終分化を免れるものと思われる。このような起始細胞の特徴を明らかにすれば、ヒト網膜芽細胞腫の発生に関与する変異の実態を詳しく知ることができ、新規な腫瘍治療ターゲットを特定することができるはずである。

doi:10.1038/nrc1416

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