Research Highlights

似たもの同士

Nature Reviews Cancer

2004年8月1日

細胞骨格タンパク質は細胞接着および細胞運動を調節し、中には細胞の生存をメディエートすることがわかっているものもある。Rakesh KumarらはCancer Cellの6月号で、細胞骨格タンパク質2種、すなわちp21活性化キナーゼ1 (PAK1)およびダイニン軽鎖1 (DLC1)が相互作用して乳癌細胞の生存および腫瘍形成能を助長するという意外な知見を報告している。

Kumar らはまず、PAKに新しい基質がないかどうかをみた。PAKはRho GTPアーゼをリン酸化して、細胞骨格構造をコントロールするほか、アポトーシス誘導タンパク質BADをリン酸化して不活化し、細胞の生存を助長する。乳腺cDNAライブラリを酵母ツーハイブリッド法によってスクリーニングし、 PAK1がDLC1(ダイニン運動複合体の成分)と直接相互作用してこれをリン酸化することを突き止めた。DLC1はダイニンの微小管依存性運動機能を調節するのみならず、アポトーシス誘導タンパク質BimLと結合してその活性を阻害することがわかっている。

では、この2つの生存助長シグナル伝達タンパク質が出会うとどうなるのだろうか。 Kumarらは、乳癌細胞系にこのタンパク質の正常型と変異型とを発現させ、細胞周期の進行および細胞の生存にはPAK1とDLC1との相互作用が必要であることを明らかにした。PAK1またはDLC1のいずれかを過剰発現する細胞は、悪性表現型を示す足場非依存性増殖を遂げ、またヌードマウスに移植すると、対照細胞にはないエストロゲン非依存性の増殖を起こした。PAK1リン酸化部位のないDLC変異体は、マウスに移植しても腫瘍形成能を発揮しなかった。したがって、細胞の生存および腫瘍形成には、PAK1による DLC1のリン酸化が必要なようである。しかも、Kumarらが分析したヒト乳癌試料の90%は、DLC1レベルが高かった。

PAK1による DLC1の活性化はどのようにアポトーシスを阻害し、腫瘍形成を助長するのだろうか。Kumarらは、DLC1がBimLを微小管に留まらせるモデルを提案している。アポトーシス誘導信号が生じると、DLC1?BimLニ量体が放出されて存分にBCL2を阻害し、細胞死に至る。細胞が増殖因子をはじめとする生存シグナルを受けると、PAK1が活性化され、DLC1もBimLもリン酸化する。このため、DLC1?BimLニ量体がBCL2と相互作用してこれを阻害する能力が発揮されず、細胞は生き延びることになる。すなわち、PAK1またはDLC1のいずれかのレベルが高ければ、細胞の生存が助長されて腫瘍形成がおこる。このモデルの裏付けを行い、ほかの腫瘍における上記タンパク質の役割を検討するには、さらに実験を重ねる必要がある。

doi:10.1038/nrc1415

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