Research Highlights

早期加齢

Nature Reviews Cancer

2004年8月1日

Werner症候群は、DNAヘリカーゼWRNをコードする遺伝子の不活化を原因とする常染色体劣性疾患で、加齢が早い、遺伝子が不安定、非上皮癌の発生率が高いといった特徴がある。テロメア(染色体を保護し、染色体の安定に不可欠な構造)の侵食に、この症候群を引き起こす役割があると考えられている。Ron DePinhoとSandy Changらは、Werner症候群の標準的な特徴が多く現れるよう、Wrnもテロメラーゼ(テロメアの維持に不可欠な酵素)のRNA成分(Terc)も欠失したマウスモデルを考案した。

WRN はDNAの組換え、複製と修復および超組換えに関与しており、これまでにも、Werner症候群患者には染色体異常が無数に認められてきた。 DePinhoとChangは、DNA修復能の低下とテロメアの機能不全とが重なると、Werner症候群発症に拍車がかかるのではないかとの仮説を立てた。

DePinhoとChangは、Wrn-/-マウスとTerc-/-マウスとの連続交配を行い、テロメアが漸次短縮し、テロメア機能不全が増大するコホートを作り出した。初代および二代目のTerc-/-マウスは、Wrnの状態が臨床徴候に影響を及ぼすことがなかったが、四代目から六代目にかけてのTerc-/-Wrn-/-マウスは、Terc-/-Wrn +/+マウスに比べて体重が減少し、生存期間も短くなった。Terc-/-Wrn-/-マウスは、出生初期のうちは健康であったが、12〜16週齢までにWerner症候群関連疾患をはじめとする早老の特徴を呈した。Terc-/-Wrn-/-マウスでは、世代が進むほど消化管陰窩細胞のアポトーシスおよび骨髄細胞の染色体融合数が増大した。これにより、WRN消失による遺伝子不安定とテロメア機能不全との関係が裏付けられた。

では、上記遺伝子型はどのようにして、このマウスの癌表現型に影響を及ぼすのだろうか。早老の後発世代Terc-/-Wrn-/-マウスは特に癌になりやすいわけではなかった(癌が発生する前に死亡すると考えられる)が、初代から三代目のTerc-/-Wrn-/-マウスは確かに骨肉腫および軟部組織肉腫の発生率が高く、通常、約63週齢で発症した。Terc-/-Wrn+/+マウスの腫瘍発生はこれよりも遅く (85週齢前後)、発生するのは主としてリンパ腫であった。

このWerner症候群の複合変異モデルを用いた研究は、WRNがテロメアダイナミクスに関与し、このタンパク質の不活化によって、増殖が遅い間葉組織を標的とした加齢表現型の基礎が形成されるという見方を裏付けるものである。

doi:10.1038/nrc1421

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