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そろそろ'発信'しますか?

Nature Reviews Cancer

2004年9月1日

癌細胞の発現プロフィールを明らかにする方法は、これまで数多く考案されてきたが、それでも実際に活性化しているシグナル伝達経路まではわからない。そこでGarry Nolanらは、リンタンパク質駆動シグナル伝達の活性化を測定する方法を考案し、種々ネットワークの活性と治療に対する急性骨髄性白血病(AML)細胞の反応との相関を明らかにしている。

STATおよびRASミMAPKシグナル伝達経路は、AML前駆細胞内で活性化することが多い。しかし、シグナル伝達タンパク質の活性化変異、その標的のリン酸化レベル、患者予後の三者間に強い関連性はない。特定の経路がAML細胞内で活性化しているかどうかを明らかにするのに、シグナル伝達タンパク質そのもののレベルを用いることはできないため、Nolanらは、上記シグナル伝達経路の仲間について、さまざまな患者の細胞でリン酸化状態(結果的には活性化レベル)の定量を試みた。患者30例のAML芽球細胞をSTAT1、STAT3、 STAT5、STAT6、p38およびERK1/ERK2のリン酸化型に対する抗体で標識することにより、種々細胞でこれら種々タンパク質の基礎活性化レベルを明らかにしたほか、マルチパラメータのフローサイトメトリーを用いることにより、種々サイトカイン刺激に曝露した場合の反応をも明らかにすることができた。

Nolanらは、サイトカイン刺激に対する正常リンパ球の反応がドナー間で異なることはなかったが、種々シグナル伝達分子の活性化にはAML患者の試料間で大きなばらつきが認められたとしている。たとえば、患者の細胞の中にはSTAT5 のリン酸化によってサイトカインGM-CSFおよびG-CSFの処置に応答するものもあったが、そうでないものもあった。1例を除く全例に、インターフェロン- (IFN )処置によるSTAT1のリン酸化が認められた。Nolanらは全体として、測定した30例中7例のサイトカイン応答状態には、AML患者の試料によって有意なばらつきがあったと報告している。しかも、シグナル伝達タンパク質の基礎リン酸化状態にも、患者の試料間で有意なばらつきがあった。

では、癌細胞で活動しているシグナル伝達経路から、治療に対する反応を明らかにすることができるのだろうか。Nolan らは、「シグナル伝達プロフィール」に基づく教師なしクラスタリングを用い、シグナル伝達タンパク質の基礎リン酸化レベルと、こうしたタンパク質がサイトカイン刺激に応答して活性化する能力とから、主な患者グループ4群を特定した。化学療法1クールに対する抵抗性は、特異的なシグナル伝達プロフィール (IFN 曝露によるSTAT1のリン酸化が見られず、STAT3およびSTAT5のリン酸化レベルが高い細胞)と実際に相関していた。この細胞には、上流のサイトカイン活性化因子の少なくともひとつに応答する能力があるという特徴があった。Nolan らはさらに、特異的なシグナル伝達プロフィールを、FLT3の変異または染色体転座といった特定の遺伝子特性とも関連付けている。

Nolanらは、シグナル伝達プロフィールを悪性進行の機序についての洞察を深めるためだけでなく、診断および予後にも利用できるとしている。Nolanらは引き続き、上記シグナル伝達経路と、薬物応答の根底にあるアポトーシス反応との関係を明らかにしようとしている。

doi:10.1038/nrc1446

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