Research Highlights

熱い議論

Nature Reviews Cancer

2004年10月1日

慢性炎症性疾患患者の腫瘍発生リスクが高いことは、かねてより報告されている。NF-Bは、向炎症性サイトカインが誘因となる転写因子であり、癌におけるNF-Bの刺激作用が疑われてきたが、決定的な答えは出ていない。現在、腫瘍形成におけるNF-B発現の作用を直接的に扱い、関連する興味深い所見を詳述した論文が2件ある。

炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎の患者には、この疾患の症状を緩和するためにも、大腸炎による癌(CAC)のリスク増大を抑えるためにも、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が投与されている。Michael Karinらは、CACマウスモデルを用いて、NF-Bの活性化を検討した。報告によれば、NSAIDはNF-B活性化因子IKKの機能を阻害する。このためKarinらは、NF-B活性化の阻害に組織特異的IKK欠失マウスを用いた。

Karinらは、このマウスに大腸癌を誘発するため、発癌前駆物質(アゾキシメタン)を1回と、向炎症性のデキストラン硫酸ナトリウムを3回投与した。IKK欠失マウスの腸上皮細胞は、対照と比べて腫瘍の発生が著明に少なく、NF-B が発癌および/または腫瘍増殖にとって重要であることがわかった。この基本機序は何だろうか。上皮細胞のアポトーシスを引き起こした炎症反応は、IKK欠失上皮細胞を有するマウスの方が激しく、この上皮細胞におけるアポトーシス発生率が高いことによって浮き彫りになった。NF-Bが有力な抗アポトーシス転写因子であることから、Karinらは、このマウスの腫瘍発生率が低いのは、活性型NF-Bの欠失によるアポトーシス増大が原因である、と結論付けている。

NF-Bはこのほか、炎症反応を介する腫瘍形成にも寄与しているのだろうか。 Karinらは、このことを明らかにするため、骨髄球/マクロファージ系特異的にIKKが欠失したマウスを作製し、同じく発癌前駆物質および向炎症性物質を投与した。NF-B欠失マクロファージを有するマウスの腫瘍発生率は低下し、炎症性サイトカイン値の低下と相関関係にあり、腸上皮細胞の増殖は大幅に減少した。このことからKarinらは、NF-Bは2つの機序を介してCACに寄与していると結論付けている。ひとつは炎症によるアポトーシスから腸上皮細胞を保護することで、もうひとつはマクロファージ炎症性サイトカインの転写を介して上皮細胞の増殖を増大させることである。

Yinon Ben-Neriahらも、Nature最新号の論文でほぼ同じ結論に達している。Ben-Neriahらは、腫瘍形成へのNF-Bの寄与を検討するため、炎症による癌のモデルとして、胆汁うっ滞性肝炎を自然発症し、肝細胞癌に至る多剤耐性タンパク2 (Mdr2)ノックアウトマウスを用いている。Ben-Neriahらはまず、炎症性サイトカイン腫瘍壊死因子(TNF)が、炎症細胞およびその周囲内皮細胞の浸潤によって産生され、肝細胞のNF-B発現増大を生じることを明らかにした。これをさらに追究するため、このMdr2- ノックアウトマウスと、NF-B活性を調節できる肝細胞を有するマウスとを交配した。これにより、肝細胞の活性型NF-Bは、炎症過程の誘発にも、明白な肝細胞増殖およびその高数性(胆汁うっ滞性肝炎または早期前癌性形成異常状態の特徴)にも必要とされないことが判明した。しかし、高齢マウスを分析したところ、異常形成肝細胞でNF-Bが不活化している場合に肝細胞癌の大きさおよび発生率が減少しており、この細胞で炎症性サイトカインによるアポトーシスが 3倍になることと相関していた。

Ben-Neriahらはさらに、NF-Bの発現が、アポトーシスの抑制を介して腫瘍形成に寄与していることを明らかにした。しかも、TNF中和抗体を投与することによってin vivo で、 NF-B を発現する異常形成肝細胞のアポトーシスを誘発できることも示したのである。TNFを標的にする薬物はすでに臨床で用いられており、Ben-Neriah らは、こうした薬物が、癌に進行するリスクの高い慢性炎症性疾患患者の化学予防薬として役立つのではないか、としている。

doi:10.1038/nrc1461

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