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逃げ道なし?

Nature Reviews Cancer

2004年12月1日

軸索誘導調節因子ファミリーのひとつであるセマフォリン3F (SEMA3F)が最初に見つかったのは、肺癌細胞に欠失していることが多い染色体上の一部分であり、これが腫瘍抑制因子でもあるのではないかとみられている。Michael Klagsbrun、 Diane Bielenbergらは現在、SEMA3Fは(効果的に腫瘍の行く手を阻み良性化することで)メラノーマの転移拡大および血管新生を阻害すると報告している。

腫瘍細胞の多くはSEMA3Fを発現するが、転移性の高い腫瘍はこれをダウンレギュレートする。Klagsbrunらは、転移性が高く、SEMA3F受容体であるニューロピリン2 (NRP2)の発現レベルが高いヒトメラノーマ細胞系(SM)を用い、この細胞にSEMA3Fを移入して培養すると、接着性および運動性が低下する(いずれも転移表現型の特徴として不可欠)ことを明らかにしている。

では、SEMA3F発現はin vivoで転移を阻害するのだろうか。対照のSM細胞またはSM/SEMA3F細胞のいずれかをヌードマウスに注入したところ、発癌率は100%であったが、広範囲に及ぶリンパ節転移および肺転移が認められたのは、SM細胞のクローンを注入したマウスのみであった。Klagsbrunらは、いくつかの方法、たとえば、蛍光標識した腫瘍細胞をマウスに注入したが潜在癌の自然転移がみられないことなどにより、SM/SEMA3F細胞が転移能を欠失していることを確認した。また、SM/SEMA3F腫瘍は被包性で、線維芽細胞およびコラーゲンマトリックスから構成される境界がはっきりしているが、SM腫瘍の表面には大量の角化細胞増殖が認められ、被包性ではないことを確認している。

次に、Klagsbrunらは、マウスモデルを用いて腫瘍血管系を比較している。 SM/SEMA3F腫瘍の血管は小さくて分枝も少なく、血管数はSM腫瘍の半分にも満たなかった。腫瘍および周囲皮膚の染色凍結切片を入念に調べたところ、腫瘍が侵入しないよう、血管が遮断されているのがわかった。SEMA3Fは、神経節からの軸索伸長を妨げるのと似た方法で、血管を拒絶するのだろうか。Klagsbrun, Bielenbergらは、NRP2を発現する内皮細胞(EC)を培養し、そこへSM/SEMA3F腫瘍細胞を加えると、広い無細胞領域が現れることを突き止めた。腫瘍細胞にSEMA3Fがないか、またはECにNRP2がなければ、無細胞領域は認められなかった。タイムラプスビデオでは、腫瘍細胞による ECの化学反発が有効なプロセスであることが明らかになった。

以上のように、SEMA3Fは、メラノーマ細胞にも内皮細胞にもある機能的受容体 NRP2を介して、さまざまな方法で転移性増殖を阻害する。Klagsbrunらは現在、原発性メラノーマと、これに対応するメラノーマ転移組織とを患者から採取し、SEMA3Fの発現について検討している。

doi:10.1038/fake839

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