Research Highlights

一歩近づく

Nature Reviews Cancer

2005年1月1日

上皮増殖因子受容体ファミリーのメンバーであるERBB2 (HER2)を発現する乳癌細胞は、なぜ特定臓器への転移発生率が高いのかという謎は今、解決に向けて一歩近づいている。Hungらは、乳癌が転移することが多い肺、肝および骨髄にリガンドが多く発現するケモカイン受容体の発現が、ERBB2のシグナル伝達によって増大することを明らかにしている。

ケモカインは、細胞接着および細胞遊走に関与する小さなサイトカイン様ペプチドのスーパーファミリーである。CXCケモカイン受容体4 (CXCR4) とその天然リガンドCXCケモカインリガンド12 (CXCL12)の発現が、乳癌転移に関与していることはわかっている。ERBB2およびCXCR4はいずれも乳癌細胞に発現することから、Hungらは、この2つにつながりがあるかどうかを検討した。

Hungらは、ヒト乳癌細胞系でERBB2がトランスジェニック発現するとCXCR4の発現が増大し、それがCXCR4 mRNAの翻訳速度が上がることによる可能性が最も高いことを明らかにした。さらにin vitro試験では、阻害因子トラスツヅマブ(ハーセプチン)でERBB2活性を遮断するとCXCR4発現が抑制され、CXCL12を介する浸潤が遮断されることがわかった。しかも、中和抗体によってCXCR4を阻害すると、ERBB2発現細胞のCXCL12を介する遊走および接着が妨げられる。Hungらはさらに、 ERBBを発現する細胞では、いったんCXCL12と結合したCXCR4があまり分解されなくなる証拠をもつかんでいる。これは、未知の機序により、 ERBB2がCXCR4のユビキチン化を抑えるためではないかと思われる。このほか、免疫不全マウスを用いた試験によると、RNA干渉法によって CXCR4があまり発現されなくなったERBB2発現乳癌細胞では、肺転移巣の形成能が著しく低下している。

Hungらが検討したヒト乳癌生検試料からは、CXCR4発現がERBB2発現の増大および予後不良のいずれとも相関していることがわかっている。以上の所見から、CXCR4?CXCL12経路とERBB2の両方を標的にすることで ERBB2陽性の乳癌患者の生存率が向上する可能性が見えてくる。

doi:10.1038/nrc1533

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