Research Highlights

カードの家

Nature Reviews Cancer

2005年3月1日

ARFをはじめとする腫瘍抑制因子は、さまざまな細胞活動を調節する多機能タンパク質である。では、何がその腫瘍抑制因子を調節しているのだろうか。Pier Paolo Pandolfiらは、Pokemonという転写因子が、ARF (おそらくはその他の腫瘍抑制遺伝子も)の発現を抑え、腫瘍形成を助長することを明らかにしている。

Pokemonは、ヒストン脱アセチル化酵素を動員してクロマチンリモデリングを促進するDNA結合タンパク質のPOKファミリーのメンバーである。Pokemonが造血細胞の分化を調節することはすでに示されており、別の造血細胞転写因子であるBCL6と物理的に相互作用する。BCL6活性の失調が、リンパ腫形成に関連するとされてきたことから、Pandolfiらは、Pokemon 機能の変質によっても、細胞分化に支障を来してリンパ腫に至るかどうかを検討した。

Pandolfiらはまず、Pokemonヌル線維芽細胞が、活性化したHRAS、E1AまたはMYCなど、正常線維芽細胞で腫瘍形成作用をもつ癌遺伝子が組み合わさることよる形質転換に対して、抵抗性を示すことを確認した。逆に、トランスジェニック Pokemonを発現する線維芽細胞は、アポトーシスおよび老化に対して抵抗性を示した。線維芽細胞でBCL6が不死化および形質転換するには Pokemon発現が必要であったことから、PokemonおよびBCL6は、共に癌遺伝子として機能すると思われた。

Pokemonは転写因子であることから、Pandolfiらは、その遺伝子標的を探しにかかった。ARFは、その不活化によってMYCおよびRASを介する細胞の形質転換を促すため、論理的にはその候補と見られた。Pandolfiらは実際に、ARFプロモーターにPokemon結合部位をいくつか発見し、ARF転写を抑制するには、この部位でのPokemon結合が欠かせないことを明らかにした。ARFの消失によって、Pokemonヌル細胞の形質転換能が救済されたことから、ARF の抑制は、Pokemonによる発癌作用の重要な機序であると考えられた。

in vivoではどうだろうか。未熟なT細胞系およびB細胞系にPokemonが特異的に発現したトランスジェニックマウスには急速進行性T細胞リンパ腫が発生し、 Pandolfiらは、ヒトT細胞リンパ腫のサブセットでPokemonがアップレギュレートされることを確認している。さらに、Pokemonは、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫および濾胞性リンパ腫(いずれもBCL6も発現するヒト腫瘍)の検体に、そのアップレギュレートが認められた。 Pandolfiらは、PokemonおよびBCL6の双方を発現するリンパ腫は、そのいずれかひとつのみをアップレギュレートする細胞よりも増殖指数が高いことを明らかにし、両転写因子間には、リンパ腫形成を助長する上で機能的協力作用があることを裏付けた。さらに研究を重ねることにより、腫瘍形成に関わるPokemon遺伝子標的がほかにも同定されると思われる。

doi:10.1038/nrc1581

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