Research Highlights

沈黙の抑制因子

Nature Reviews Cancer

2005年3月1日

後成的変化が腫瘍形成に寄与することは知られているが、こうした変化が癌の進行に及ぼす影響を研究するのはことさら困難である。マウスモデルを用いて後成的変化を特定することはできるのだろうか。また、このようなモデルはヒトの腫瘍に適切なのだろうか。Christoph PlassとMichael Caligiuriが率いる研究グループは、急性白血病性形質転換モデルを作製し、白血病進行時に起こるCpGメチル化の変化を測定するのに用いた。また Plass とCaligiuri らはこれを実施するなかで、ヒトおよびマウスの腫瘍で後成的に沈黙している推定上の腫瘍抑制因子を新たに発見した。

このマウスモデルには、インターロイキン15 (IL-15)が過剰発現しており、マウスの30%が急性リンパ芽球性白血病を発病し、発病前には必ず良性多クロ−ン性リンパ球増殖が認められた。 Plass とCaligiuri らは、制限酵素ランドマークゲノムスキャニング法(RLGS)を用い、白血病進行中のゲノム全体でDNAメチル化パターンを追跡した。この方法は、メチル化に感受性のある制限酵素を利用して、正常細胞と癌細胞のゲノムメチル化レベルを比較し、メチル化部位を特定するというものである。

Plass とCaligiuri らは、急性白血病性形質転換を来したマウスゲノムのメチル化レベルが、良性多クロ−ン性リンパ球増殖を有するマウスおよび正常マウスのいずれよりも大幅に高いことを明らかにした。また、メチル化増大部位が不規則でなく、一定のパターンに従って生じることが突き止められたのも目を引く。しかもここで認められたメチル化のパターンは、ヒトの対応疾患について明らかにされているパターンと類似していた。

Plass とCaligiuri らはさらに、メチル化レベルの高いプロモーターを有する遺伝子のクローンを作製し、そのほぼ全てが既知の遺伝子、mRNAまたは発現配列タグと配列が相同であることを突き止めた。その例が、いくつかのヒトの腫瘍で後成的に沈黙しているSlit2であり、T細胞アポトーシスおよび悪性軟骨肉腫に関与していると考えられているNr4a3である。さらに、検査したクローン遺伝子の少なくとも5個については、プロモーターのメチル化が、マウス白血病細胞系の遺伝子発現の減少と強く相関していた。試験対象とされたこの細胞系を脱メチル化薬で処理すると、遺伝子発現が回復した。

白血病マウスにおいて沈黙を貫いていることをPlass とCaligiuri らが発見したもうひとつの遺伝子が、DNA結合阻害因子4 (Idb4)である。IDB4の機能は不明であるが、Plass とCaligiuri らは、ヒトの場合、ID4 が沈黙している割合は急性白血病が85%以上、慢性リンパ球性白血病が100%であることを突き止めている。充実性腫瘍におけるID4の沈黙頻度ははるかに低く(20%前後)、この作用がどちらかといえば血液学的悪性腫瘍選択性であることがわかる。PlassとCaligiuriらは、(メチル化していない) Idb4をマウス腫瘍細胞に移入するとアポトーシスが増大し、in vivo、in vitroを問わず増殖が緩徐となったことから、Idb4 は腫瘍抑制因子ではないかと考えるに至った。

次の実験では、siRNAを用いて腫瘍細胞系でのIdb4 の発現をダウンレギュレートすることになろう。とはいえ、Idb4は腫瘍のなかで沈黙を守り通しているため、それを発現する白血病細胞系がまだ見つかっていないのが現実である。ヒト白血病における後成的な沈黙が明らかで、脱メチル化薬を用いればその沈黙を破ることができるとわかっているため、Plass とCaligiuri らは、推定上の腫瘍抑制因子Idb4 がバイオマーカー、予後指標および治療標的となりうるとの結論に達している。

doi:10.1038/nrc1580

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