Research Highlights

GEFを経て増殖する

Nature Reviews Cancer

2005年3月1日

膵癌は実際に難治性であり、5年全生存率はわずか3%である。膵癌の発生には細胞の増殖およびアポトーシスに関与するシグナル伝達経路のいくつかが関わってきたが、それに的を絞った治療法は無効であることがわかっている。Martin Fernandez-Zapicoらは現在、主として骨髄由来細胞系に発現するグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)の VAV1が、膵癌を助長する発癌経路を調節し、新しい治療標的になりうることを報告している。

Fernandez-Zapico らは、膵癌患者95例から得た腫瘍検体をスクリーニングし、その50%以上にVAV1が発現しているが、正常な膵組織にはないことを突き止めた。患者の生存統計を比較したところ、VAV1陽性患者の方が、そうでない患者よりも著しく不良であることが明らかになった。

RNA干渉法を用い、VAV1陽性膵癌細胞系2種のVAV1を枯渇させると、対照細胞に比べてその細胞の増殖能が低下し、軟寒天でのコロニー形成ははるかに少なく、免疫不全マウスに細胞を注入したあとの腫瘍はずっと小さかった。その上、 VAV1発現の減少から、VAV1陽性細胞系のアポトーシスが増大するに至った。このことは、両細胞系に癌遺伝子KRASも含まれているという事実に反しており、VAV1活性がどういうわけか、形質転換した細胞の性質を維持していることがわかる。

VAV1は、GTP結合タンパク質のRhoファミリーメンバーを活性化する一連の GEFのひとつである。Rhoタンパク質は、細胞増殖および抗アポトーシス活性につながるいくつかのシグナル伝達カスケードを調節しており、このタンパク質の一部が活動亢進状態になると癌が発生することがわかっている。Fernandez-Zapico らは、VAV1のGEF機能が膵癌を助長する上で重要かどうかを検証するため、GEF活性をもたない変異型VAV1をコードするDNAをVAV1陰性膵癌細胞系に移入した。野生型は細胞増殖を増大させたが、変異型にその作用なかった。

一般に、VAV1 GEF活性は、細胞表面の受容体によって調整され、膵癌にはいくつかの増殖因子受容体が異常に発現している。特に、表皮増殖因子受容体(EGFR)とそのリガンドのレベルが高ければ、早期膵癌であることが多い。Fernandez-Zapicoらは、VAV1を発現する細胞にEGFを加えると細胞増殖が亢進することを突き止め、EGFの付加でVAV1が迅速にチロシンリン酸化されることを明らかにした。これは、チロシンキナーゼSRCおよびEGFRのいずれをも必要とする過程である。膵癌細胞の反応をさらに検討することで、VAV1が実際にEGF刺激経路(RAC1-PAK1カスケード)の調節に関与していることのほか、VAV1がサイクリンD1のアップレギュレートによって、少なくとも部分的に腫瘍増殖を助長していることが明らかになった。 Fernandez-Zapicoらは、この発癌経路、そして特にPAK1およびSRCが膵癌治療の魅力ある標的となることを示唆している。

doi:10.1038/nrc1574

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