Research Highlights

ポジティブな欠陥

Nature Reviews Cancer

2005年5月1日

機能性BRCAタンパク質のない患者は、このタンパク質がDNA 修復で担うきわめて重要なその役割ゆえに、乳癌発生リスクが高い。最新号のNatureに掲載された3報では、BRCA2がどのように機能してDNA修復を調節し、癌細胞にこの機能がないことを治療にどう活かすことができるかがクローズアップされている。

Stephen Westらは、BRCA2とRAD51との相互作用を検討している。RAD51は、相同的組換え(HR)修復経路のきわめて重要な成分であり、BRCA2 BRC繰り返しモチーフおよびC末端の相互作用領域を通じて、BRCA2と相互作用する。最新データからは、この相互作用が、RAD51リコンビナーゼ活性に不可欠なRAD51核タンパク質フィラメント形成と、RAD51とDNA損傷部位との迅速な会合という2つのきわめて重要なプロセスを促進していることがわかる。Westらは、BRCA2 C末端の一連の標識タンパク質フラグメントを用いて、RAD51相互作用モチーフを明らかにした。また、BRCA2 C末端にあるSer3291のリン酸化が、RAD51との相互作用を調節していることを突き止めた。この残基のリン酸化は、細胞周期のG2/M期に、サイクリン依存性キナーゼ(CDKs)によって起こる。さらに、CDK依存性リン酸化はDNA損傷を来すと阻害され、RAD51とBRCA2 C末端との相互作用と、RAD51のDNA損傷部位への移動を促進する。以上の所見から、BRCA2 Ser3291のリン酸化はRAD51活性を調節し、G2/M期にはそのリコンビナーゼ活性化を妨げているが、S期には、複製によって誘導される鎖切断の修復を促進していることがわかる。

重要なことに、ヒト乳癌からの証拠は、Ser3291周辺の領域が変異のホットスポットであることを示している。BRCA2のC末端部が消失しても、BRC領域が温存されていれば、電離放射線に対する反応が損なわれてしまう。 RAD51フォーカスが形成されなくなり、HRによるDNA損傷修復が破綻するのである。このリン酸化部位を単離すると、治療戦略が見えてきそうに思われるが、ほかの2報は、BRCA2 (またはBRCA1)がない腫瘍は、HRが効率よく行われないため、正確に狙えることを示している。

Thomas Helledayらと、Alan Ashworthらは、DNA修復酵素であるポリ(ADP)リボースポリメラーゼ(PARP)を阻害すると、RAD51修復フォーカスの形成が増大することを明らかにしている。以前の所見によると、PARP1はHRにおいて直接的な機能をもっていないが、PARP1がなければ、効果的なHR修復経路の必要性が高まる。HelledayらもAshworthらも、自然発生する一本鎖DNAの切断は、PARP1欠損細胞では効果的に修復されず、この切断が複製時に二本鎖DNAの切断に変わりやすいために、複製フォークの破壊に至ると考えた。BRCA2は通常、RAD51をこの部位に動員してHRを実行するが、機能性BRCA2 (およびBRCA1、とAshworthらは示している)の不在下では、HRが起こらず、誤りがちなDNA修復経路の使用が促進されて、細胞が死に至る。

このほか、HelledayらおよびAshworthらはそれぞれの論文で、 BRCA2-/-細胞がPARP阻害因子を識別する感度がきわめて高いことを明らかにしている。このことから、BRCA1またはBRCA2のいずれかがヘテロ接合の患者は、BRCAヌルの腫瘍が生じる場合に限り、PARPベースの治療戦略が奏功すると考えられるが、それ以外の患者の細胞はヘテロ接合のままであるため、PARP阻害の影響を受けない。実際、Helledayらは、PARP阻害因子の毒性が低いことから、これがBRCA遺伝性乳癌の予防的治療薬となるのではないかとしている。さらに、Ashworthらが指摘しているように、この論文は、HR経路内に欠損のある(すなわち、 'BRCAness'を呈する)腫瘍であれば、PARP1の機能を阻害することによって治療可能であることを意味するものである。

doi:10.1038/nrc1618

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