Research Highlights

Mobの手を使う?

Nature Reviews Cancer

2005年5月1日

Mobスーパーファミリーのメンバーは130を超え、進化を経てもきわめてよく保存されているが、その機能はあまり知られていない。Laiらは、新たに発見され、腫瘍抑制因子WTSなどのタンパク質キナーゼのコアクチベーターとしての役割が考えられるメンバー、MATS (「腫瘍抑制因子としてのMob」の略)を報告している。

Laiらは、ショウジョウバエのmats遺伝子が、細胞増殖を亢進させ、多くの器官において腫瘍発生を引き起こす自然致死変異であると同定した。このmats変異ハエは、サイクリンなど、主要な細胞周期調節因子のレベルが高く、細胞分化に支障を来している。

ハエ眼原基のmatsは、細胞の生存に必要なカスパーゼ阻害因子をコードするdiap1の転写をダウンレギュレートするのに必要である。しかも、すでにアポトーシスを促進する欠陥のあるハエにmats変異を導入すると、この欠陥による影響が消失した。このことから、matsは細胞死を助長することがわかり、mats の消失が腫瘍増殖に寄与する理由もわかる。

ショウジョウバエの遺伝子マッピングでは、matsがCG13852遺伝子であると同定された。このことは、CG13852 cDNAを用いてmats 変異体を救済することによって確認されている。系統発生分析からは、Mob遺伝子スーパーファミリーのうち、よく保存されているサブグループのmats遺伝子について、ヒトおよび植物の相同体がハエと同一である割合がそれぞれ、87%および64%であることがわかった。このことから、MATSタンパク質の機能は温存されていると考えられ、実際、ヒト相同体MATS1は、変異ハエの表現型を効率よく抑制した。

MATSが腫瘍抑制因子として機能するというモデルの裏付け証拠は、ヒトメラノーマ試料にMATS1の不安定変異を特定したことと、マウス乳癌にMats1のヌル変異を特定したことから得られた。

mats変異ハエの表現型は、細胞増殖およびアポトーシスを調節するHPO?SAV?WTSシグナル伝達経路の成分が変異を来しているハエと類似していることから、Laiらは、mats とwtsとの関係を検討し、matsおよびwts が相乗作用して、細胞増殖およびアポトーシスを制御していること、MATSがWTSとともに複合体を形成することを突き止めた。

Mob ファミリーのほかのタンパク質は、タンパク質キナーゼの触媒活性を促進することがわかっている。同じく、MATSはWTSのキナーゼ活性を顕著に促進し、ヒトMATS1にはハエMATSと同じくらいの効果があった。またWTSは、それ自体およびMATS/MATS1の双方をリン酸化すると思われる。しかも、ホスファターゼ活性を阻害すると、WTSキナーゼ活性が大幅に増大したことから、WTS機能にはMATSおよび/またはWTSのリン酸化がきわめて重要であることがわかる。

以上のことから、MATSは、細胞増殖を制限してアポトーシスを助長する上で、 WTSキナーゼの活性化サブユニットとして機能すると思われる。さらに、増殖抑制および腫瘍抑制に対するその作用が進化の過程で温存されていると見られることから、MATSがヒト癌において重要であることは十分にわかる。

doi:10.1038/nrc1617

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度