Research Highlights

的外れ効果

Nature Reviews Cancer

2005年6月1日

ファルネシルトランスフェラーゼ(FTase)阻害因子(FTI)は、癌遺伝子RASを阻害する目的で開発されたが、FTIのin vivo効果は散発的で、RASの活性化とは無関係であることが明らかにされている。Lacknerらは、FTIの雑多な挙動の原因を明らかにする的外れ効果を解明している。

Ftase は、さまざまなタンパク質の翻訳後修飾にきわめて重要なプレニルトランスフェラーゼ3種のひとつである。Ftaseはゲラニルゲラニルトランスフェラーゼ 1 (GGT1)と密接に関わっていることから、FT1によるGGT1阻害の逆スクリーニングがすでに実施されている。RABゲラニルゲラニルトランスフェラーゼ(RABGGT)の構造は、FtaseおよびGGT1とは明らかに異なっていると考えられ、FTIが的を外す可能性は低いということになっていた。

Bristol-Myers SquibおよびExelixisの研究チームは以前に、FtaseまたはGGT1の阻害とは独立した機序によりアポトーシスを引き起こすFTIがいくつかあることに言及している。Lacknerらは、上記阻害因子の活性に関する理解を深めるため、線虫Caenorhabditis elegansを用いた。この線虫の生殖細胞には、成熟途上で自発的にアポトーシスを来すものがあり、この研究チームはまず、一部のFTIにアポトーシス生殖細胞の数を増大させる能力があることを突き止めた。

この研究チームは、新たなFTIターゲットを特定するため、順遺伝学的な化学的突然変異誘発スクリーニングおよび逆遺伝学的スクリーニング(RNA干渉: RNAi)を用いて、同じく向アポトーシス表現型を与える遺伝子の獲得または消失がないかどうかをみた。この研究チームは、順遺伝学的方法を用いて、破断された遺伝子座4部位を特定し、生殖細胞の最も高いアポトーシスレベルと相関する1部位について、さらに分析した。この変異遺伝子は、タンパク質移動に関与するタンパク質VSP41をコードしていた。Lacknerらは、RNAiノックダウンスクリーニングにより、VPS41と結合してHOPS複合体を産生する別のタンパク質5個を酵母で特定した。

HOPS複合体はRAB7 GTPaseとともに、エンドソーム-リソソームおよびオートファゴソーム-リソソームのドッキングおよび融合により、タンパク質移動を促進している。タンパク質移動に関与し、RABGGTによって修飾されるC. elegansのrab-7およびrab-5を標的としたRNAiを実施したところ、生殖細胞系のアポトーシスが誘導された。しかし、酵母の自食作用特異的遺伝子相同体を標的としてRNAiを実施してもそうはならず、向アポトーシス反応にはエンドソーム-リソソーム機能の破綻が重要であることがわかる。

では、アポトーシスを引き起こすFTIは、RABGGT経路に影響を及ぼすのだろうか。Lacknerらは、線虫のRABGGT活性を阻害すると、向アポトーシスFTIに反応してアポトーシスレベルが高くなり、このことがRABGGT阻害能と相関していることを明らかにしている。これは、哺乳動物の細胞にも当てはまるのだろうか。FTIをさらに19種類スクリーニングしたところ、FTIによるアポトーシスとRABGGTの阻害とのつながりが強まった。さらに、Lacknerらは、ヒト肺癌細胞系を用いて向アポトーシスFTIとアポトーシスを引き起こさないFTIとを比較し、両化合物ともFTase を阻害するものの、RABGGTを阻害するのは向アポトーシスFTIのみであることを突き止めた。さらに、哺乳動物細胞のRABGGT を標的としたsiRNAによってもアポトーシスが誘導された。

Lacknerらはこのほか、RABGGTの - または - サブユニットをコードするmRNAが、正常組織と比較して、さまざまなヒト腫瘍試料にきわめてよく発現していることを示している。このように、上記所見からは、RABタンパク質の翻訳後修飾の阻害によってアポトーシスが誘導されることがわかり、これが一部のFTIの作用様式を明らかにしている。しかも、 RABGGTおよびおそらくはリソソーム-エンドソームの移動が今後、治療標的となりうる。

doi:10.1038/nrc1638

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