Research Highlights

縁起のいい抗原

Nature Reviews Cancer

2005年7月1日

腫瘍は往々にして免疫原性であり、成人組織には通常発現せず、それゆえ免疫応答によって「自己」のものと認識されないタンパク質を産生する。こういった遺伝子のなかには、生殖細胞に発現するものもあり、そのために(免疫保護された)精巣から検出されることがある。Andrew Simpsonらは、超並列的遺伝子ビーズクローン解析法(massively parallel signature sequencing: MPSS)を用いて、癌に対する免疫応答を増大するワクチンの有望な候補となる「癌精巣」(CT)抗原をいくつか特定した。

Simpsonらは、種々ヒト組織の発現プロフィール作成にMPSSを用いている。ヒト組織が発現するmRNAの3’領域から、数百万という短い配列タグを生み出し、そのほとんどを個々の遺伝子に明白に割り当てた。Simpsonらは、遺伝子発現データベースを用いて、精巣のほか、CTが豊富な細胞系にも優先的に発現する遺伝子を特定した。

Simpsonらは、この精巣特異的遺伝子をひとまとめにして用い、リアルタイム PCRプライマーを作製して、癌細胞系の遺伝子発現を定量した。CT遺伝子を少なくともひとつ発現することがすでにわかっている上記癌細胞系21系列には、メラノーマ、肉腫、肝細胞癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、大腸癌、腎癌および膀胱癌が含まれる。

精巣特異的遺伝子は、大きく3グループに分けられている。ひとつ目のグループは、その発現が精巣腫瘍および生殖細胞腫瘍にほぼ限定されており、体細胞組織および生殖細胞以外の癌のいずれにも発現していなかった。次のグループは、精巣に強く発現しているものの、癌細胞系での発現レベルはほとんどないに等しい低さでしかなかった。上記両遺伝子グループは、ワクチンの標的とはなりにくいと思われる。しかし、最後のグループは、正真正銘のCT遺伝子であった。このグループの遺伝子20個は精巣に強く発現しており、おそらくは低メチル化またはヒストン脱アセチル化のため、癌細胞での活性化頻度が高かった。癌に発現する頻度には相当なばらつきがあるものの、有益な免疫療法としての可能性があるのは、 (ほかの諸試験では検知されてこなかった)これらのCT遺伝子である。

今回のSimpsonらの試験で特定されたもののひとつであるCT45を含め、これまでに見つかっているCT遺伝子のほとんどがX染色体上にあるのは興味深い。実際、近頃完成したX染色体配列からは、CT遺伝子ファミリーがこの染色体の特徴であることがわかる。CT45は試験に供した21系列のうち13系列に発現し、既知の重要なワクチン候補CTのいくつかと、構造および発現の特徴が類似している。Simpsonらは、CT45が、6個の同一またはほぼ同一の遺伝子クラスタに属することを突き止めており、これが遺伝子重複により生じているのではないかとしている。この独特なX連鎖性CT抗原遺伝子ファミリーは、まるごと抗癌ワクチンの重要候補である。

doi:10.1038/nrc1655

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