Research Highlights

環境問題

Nature Reviews Cancer

2005年8月1日

腫瘍を取り囲む組織は、その発生でも、癌細胞そのものの中で生じる遺伝的変化でも同じくらい重要な役割を担っていることが明らかになっている。微小環境はどのようにして、こうした発癌作用をメディエートしているのだろうか。Derek RadiskyらはNatureで、乳腺組織では、マトリックスメタロプロテイナーゼ3 (MMP3)の過産生が引き金となって周囲細胞による活性酸素種(ROS)の産生が増大し、DNA損傷および遺伝的不安定性が生じて、最終的には悪性転換に至ると報告している。

MMP は、腫瘍間質によって産生され、末期の腫瘍進行でよく知られた役割を担う細胞外マトリックス分解酵素であり、細胞の動員および浸潤と、転移を助長する。 Radiskyらは、MMP3をはじめとする一部のMMPが、どのようにして直接的にも乳腺上皮細胞を形質転換させうるのかを明らかにしようとした。

MMP3によって形質転換した乳腺上皮細胞の形態変化から、細胞骨格調節タンパク質の変調が関与しているのではないかと考えられた。多数の細胞骨格調節因子の発現レベルを検討するなかで、Radiskyらは、代替スプライス型の GTPase RAC1 (RAC1b)がMMP3によって形質転換した細胞で過剰に産生されていることを突き止めた。このアイソフォームについては、以前にヒトの乳癌および大腸癌でのアップレギュレートが報告されているほか、培養細胞での形質転換能も報告されており、興味深い。

RAC1bはどのようにして、形質転換をメディエートするのだろうか。細胞骨格構造の形成調節における役割のほか、RAC1はミトコンドリアスーパーオキシドの産生および細胞質内への放出をも促進する。Radiskyらは、MMP3で細胞を処理するとROSの細胞内レベルがRAC1依存性に増大し、細胞の運動性および浸潤性が増大するほか、転写因子の発現異常、上皮から間葉への転換の誘導など、腫瘍形成を引き起こすさまざまな細胞内変化が生じることを明らかにした。こうした変化はいずれも、ROS失活物質Nアセチルシステイン(NAC)により阻害された。とりわけ、MMP3によるROS産生が、(腫瘍形成の特徴である)細胞内での遺伝子の増幅および欠失のほか、DNA損傷にもつながるというのは重要である。

MMP3の細胞外レベルの上昇がどのようにしてこのRAC1の代替スプライス産物をアップレギュレートしているのかは依然として不明であるが、MMP3が細胞外受容体タンパク質のEカドヘリン(CDH1)を切断する能力により、細胞内シグナル伝達カスケードが開始されるためではないかと考えられる。この研究は現在、正常細胞の表現型および遺伝子型の形質転換を促進するほかの微小環境因子をも巻き込んで実施されている。

doi:10.1038/nrc1678

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