Research Highlights

ぶら下がっていることのリスク

Nature Reviews Cancer

2005年9月1日

長期にわたる胃でのHelicobacter pylori定着は、わかっているなかでは胃腺癌発生の最大のリスクであるが、発癌にまで至るのは細菌が定着した数多くの個体の一部でしかない。Richard Peekらは、げっ歯類モデルを用いて、宿主細胞への細菌接着によってリスクが増大する可能性を明らかにしている。

Peekらは、H. pyloriのヒト臨床分離株をスナネズミに感染させ、3週間放置してこの細菌を宿主環境に順応させた。これにより、発癌過程をさらに検討するのに理想的な、発癌性の高い菌株が生まれた。この菌株をスナネズミのコホートに感染させると、8週間後には75%に胃腺癌が生じたが、ヒトから単離した親菌株を感染させても、発癌はみられなかった。

Peekらは、胃上皮細胞をin vitroで用い、発癌性菌株で核のカテニン量が増大することを突き止めた。さらに、ルシフェラーゼアッセイからは、カテニン依存性転写活性の誘導が明らかになった。これらは、多くの腫瘍の進行に重要な現象であり、ほかの発癌物質によっても引き起こされる。しかし、 Peekらは、H. pyloriが上記変化を引き起こす機序が、 カテニンのリン酸化およびユビキチン化の遮断という通常のものではないことを知って驚いた。そうではなく、H. pyloriの病因遺伝子であるcagセットが関与していたのである。この遺伝子は、分子装置をコードしてCagAタンパク質を宿主細胞に移入し、そこではCagAが宿主のホスファターゼSHP- 2を活性化して形態学的変化を引き起こす。一連の遺伝子ノックアウト実験からは、発癌性菌株の病理学的特性が、実際にCagAによるものであることが裏付けられた。

では、発癌性菌株とその親菌株とが、いずれもcag遺伝子を有し、マイクロアレイによる比較でも獲得遺伝子または欠損遺伝子に大差が見られないとすれば、両菌株はどう異なっているのだろうか。両菌株はCagAを同レベルで発現したが、発癌性菌株の方が宿主への移行が効率的であった。これは、宿主細胞への細菌接着がすぐれていることの結果と見られる。

上記in vitro所見の中には、げっ歯類を用いて検証しなおしたものがある。ここでPeekらは、発癌性菌株の感染初期にのみ、 カテニンの核局在が増大することを突き止め、この時期が発癌にきわめて重要であることを明らかにした。ほかにも、cag+菌株に感染したヒトから採取した細胞には、cag-菌株に感染したヒトまたはH. pylori感染が全く認められないヒトの細胞と比較して、上皮細胞よりも核に カテニンが多く認められることが確認されている。

以上の結果から、長期H. pylori感染の発癌リスクが高いのは、宿主細胞に接着して胃に留まるよう、細菌に選択圧がかかった結果であると考えられる。しかし、関与する遺伝子変化は、未だ正確には特定されていない。

doi:10.1038/nrc1703

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