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Nature Reviews Cancer

2005年10月1日

p53ファミリーに属するp63およびp73をコードする遺伝子は、何種類かのタンパク質アイソフォームを産生することができる。Jean-Christophe BourdonとDavid Laneらはこの事実に照らして、基本メンバーであるTP53の遺伝子構造を再検討し、TP53が実際に少なくとも6種類のp53 mRNAアイソフォームをコードし、その中には癌細胞において他とは異なる調節を受けるものがあることを突き止めた。

哺乳動物のゲノムには、TP53ファミリーのメンバーが3種類含まれるが、無脊椎動物には1種類しか存在せず、哺乳動物のメンバーは1つの祖先遺伝子が3倍になったものに由来すると考えられる。この仮説が正しければ、TP53にTP63およびTP73の複雑さがないのはいささか奇妙である。TP63およびTP73はいずれも代替内部プロモーターから転写され、選択的にスプライスされたアイソフォームをそれぞれ少なくとも3種類および11種類発現する。これに対しTP53は、mRNAスプライス異型3種を転写するプロモーターが1種のみで、はるかに単純な構造をもつと考えられていた。

Bourdonらは、TP53 とこれがコードした全mRNAとを評価するため、キャップmRNA転写物のみを増幅して転写開始部位の検知を可能にする技術であるGeneRacer PCRを用いた。また、内部プロモーターから生じると思われる転写物を特定しようと、エキソン4およびエキソン5の特異的プライマーを考案している。

Bourdonらは、全体的にみて、TP53が理論的にp53アイソフォーム9種を転写できることを突き止めた。その 9種とは、完全長p53、p53 とp53 、 133p53、 133p53 と 133p53 ( 133はイントロン4の代替内部プロモーターによる)、 40p53、 40p53 と 40p53 ( 40はイントロン2の選択的スプライシングか、または選択的転写開始部位の使用による)である。 およびのアイソフォームは、イントロン9の選択的スプライシングから生じるものである。上記mRNAはいずれも、組織特異的な形で正常なヒト組織検体から検出でき、タンパク質発現につながるものである。また、内因性p53 アイソフォームは特異的抗体によって検出された。しかし、内因性p53 および 133p53タンパク質アイソフォームを検出するには依然として、アイソフォーム特異的抗体を生み出す必要がある。

上記アイソフォームのうち、どれがp53機能に影響を及ぼすのだろうか。さらに検討を重ねたところ、p53 アイソフォームは、MDM2プロモーター(またはCDKN1Aプロモーター)よりもBAXプロモーターと容易に結合するが、p53はBAXよりもMDM2とよく結合することがわかった。Bourdonらは、これによりp53 がp53を介するBAXプロモーター活性を強化すること明らかにしているが、これがp53もp53 も発現する細胞で誘導されるアポトーシスレベルに影響を及ぼすわけではなさそうである。その一方で、 133p53はp53を介するアポトーシスを阻害することから、それがドミナントネガティブとして機能していることがわかる。

Bourdonらはさらに、ヒト乳癌検体を用いてmRNAアイソフォームの発現を評価している。30検体のうち、発現したp53アイソフォームの組み合わせが正常乳腺組織と同じであったものはなかった。たとえば、TP53 およびTP53 は正常乳腺組織に発現するが、TP53 は検出されず、TP53 は10検体から検出されたにすぎなかった。また、 133TP53は、正常乳腺組織には発現しないが、24検体から検出された。注目すべきことに、p53の変異型を発現していたのは、上記腫瘍の5つのみであった。

Bourdonらは以上の所見に基づき、乳癌でのp53アイソフォーム発現の調節は変調を来しており、この発見が野生型p53を発現する腫瘍に重要となりうるとの結論を導いている。

doi:10.1038/nrc1724

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