Research Highlights

フレームのなかのPRAME

Nature Reviews Cancer

2005年11月1日

メラノーマの95%のほか、乳癌および神経芽細胞腫の多くには、メラノーマ優先発現抗原(preferentially expressed antigen in melanoma: PRAME)という腫瘍抗原が過剰発現しているが、その潜在的な発癌機能はほとんどわかっていない。Rene´ BernardsらはCellに掲載された論文で、PRAMEが、細胞の増殖および生存を助長するレチノイン酸シグナル伝達の重要なモジュレーターであることを示している。

BernardsらはPRAMEの機能を検討すべく、そのタンパク質配列を分析して、保存モチーフを特定した。また、核局在化シグナルのほか、PRAME には、レチノイン酸受容体(RAR)などの核受容体に対する推定上の結合領域が7箇所あることを突き止めている。ルシフェラーゼレポーターアッセイからは、PRAMEは実際にレチノイン酸応答配列を含む遺伝子の転写を抑制できるが、エストロゲン受容体またはペルオキシソーム増殖活性化受容体など、ほかの核受容体によって活性化される遺伝子は抑制できないことがわかった。

レチノイン酸はシグナル伝達分子であり、レチノイン酸受容体RAR 、RAR またはRAR との相互作用によって遺伝子発現を調節する。このRARは、レチノイドX受容体(RXR)とともにヘテロ二量体を形成し、レチノイン酸応答配列と結合して遺伝子転写を活性化する。レチノイン酸の不在下では、RARはDNAと結合したままで遺伝子発現を抑制する。Bernardsらは、PRAMEがリガンド (レチノイン酸)依存性に、RARを介する遺伝子転写を抑制することを示した。また、PRAMEがRARと直接相互作用し、F9マウス胚性癌細胞に PRAMEが発現すると、レチノイン酸による分化、細胞周期の停止およびアポトーシスが妨げられることを明らかにしている。逆に、メラノーマのPRAME をノックダウンすると、レチノイン酸シグナル伝達が回復し、さらにメラノーマ異種移植モデルでは、レチノイン酸の存在下でメラノーマ増殖の大幅な阻害が認められた。

では、PRAMEはRARを介する遺伝子転写をどのように抑制しているのだろうか。転写抑制には、ヒストン脱アセチル化酵素 (HDACs)の動員が関与していることが多いが、PRAME発現細胞をHDAC阻害因子であるトリコスタチンAで処理しても、PRAMEによる転写抑制に何ら影響は及ばなかった。しかし、予備試験での証拠によると、一部のヒト腫瘍では、PRAMEの発現が、遺伝子サイレンシングに関与するタンパク質のポリコームグループのメンバーであるEZH2の発現と相関している。EZH2およびPRAMEに標識したものを用いたところ、この両タンパク質が相互作用して、レチノイン酸依存性にRARを介する遺伝子転写を抑制することが確認された。さらに、短いヘアピンRNAによってEZH2またはPRAMEのいずれかの発現をノックダウンすると、メラノーマ細胞系はレチノイン酸を介する細胞周期停止およびアポトーシスを回復した。

Bernardsらは、PRAMEはレチノイン酸シグナル伝達の抑制によって、腫瘍の発生ではなく腫瘍の進行に関与していると結論付けている。しかし、 PRAMEがメラノーマをはじめとする癌を治療するための治療標的となりうるかどうかについては、さらに研究を重ねる必要がある。

doi:10.1038/nrc1747

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