Research Highlights

左右をよく確かめて

Nature Reviews Cancer

2005年12月1日

Kru ppel様因子4 (KLF4)という転写因子は、さまざまな癌で腫瘍抑制因子として機能するが、乳癌など、それ以外の癌では癌遺伝子として機能する。Daniel PeeperらはNature Cell Biologyに掲載された論文で、腫瘍形成にみるKLF4のJanus様挙動を説明する分子機序をいくつか特定している。

Peeperらは、KLF4が発癌性RAS (RASV12)によって誘導される細胞老化を回避できるタンパク質であることを確認した上で、作用している分子機序を細かく調べることにした。それにより、KLF4は腫瘍抑制因子p53の発現を抑えるが、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子p21 (CDKN1A)の発現を誘導することを立証した。p53はRASV12による増殖停止の決定的なメディエータであることから、Peeperらは、KLF4によるp53 の抑制が、KLF4が老化を回避する手段ではないかとの仮説を立てた。この仮説は、短鎖ヘアピンRNA を用いてp53をKLF4の発現によるものと同程度にまで抑制すると、RASV12による老化が妨げられたことで確認された。

KLF4はどのようにして、p53の発現を抑制するのだろうか。ノーザンブロット法では、KLF4がTP53 mRNAレベルをダウンレギュレートすることが示され、またクロマチン免疫沈降アッセイにより、これはKLF4がTP53プロモーターに直接結合して起こることが明らかになった。

KLF4がどのようにしてRASV12による停止を妨げるかはKLF4を介したp53の抑制から説明がつくが、その逆、すなわちRASV12がどのようにしてKLF4による停止を回避するかはわからない。確かにKLF4はほかの腫瘍抑制因子と同じく、通常は細胞周期停止の引き金を引く。既知のRASの分裂誘発標的のひとつがサイクリンD1であるが、Peeperらは、サイクリンD1発現の不在下では、RASV12とKLF4との共同作用による細胞増殖の促進が不可能であることを突き止めており、こうした状況下でサイクリンD1がきわめて重要な役割を担っていることがわかる。

このことは、KLF4が誘導するp21の発現とどう結びつくのだろうか。サイクリンD1は、p21による細胞周期停止を無効化するため、細胞は増殖できる。この仮説と一致して、KLF4の存在下では、p21ヌルマウス胚線維芽細胞が停止することはなかった。こうしたデータを総合すると、KLF4は、 p21の発現レベルを上昇させることで細胞周期停止を誘導する腫瘍抑制因子であることがわかる。

Peeperらはこのほか、KLF4を介するp53の抑制から、乳癌細胞にみるKLF4の発癌へ向けた動きの説明がつくかどうかを検討し、ヒト乳癌細胞系のKLF4を抑制すると、p53が再び発現するようになり、アポトーシスを来すことを突き止めた。このことから、KLF4によるp53 の抑制は、乳癌細胞の生存に重要と思われ、こうした細胞にみるKLF4の発癌作用はこれによって説明できると考えられる。

Peeperらは、全身性のKLF4ターゲティングについて、KLF4の発癌機能および腫瘍抑制因子としての機能のいずれをも阻害することになるため、望ましくないとの結論を導いている。

doi:10.1038/nrc1771

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