Research Highlights

発生パターン

Nature Reviews Cancer

2006年5月1日

グリオーマの診断は現在、病理組織学的基準を用いて行われており、主な予後因子は腫瘍悪性度および患者の年齢である。今日、グリオーマについては神経幹様細胞から生じることを思わせるいくつかの証拠があることから、Heidi Phillipsらは、グリオーマの病勢悪化パターンを神経発生の段階と絡めて明らかにし、分子的特徴の予後モデルを確立することに着手した。

Phillipsらはまずマイクロアレイを用いて、新たに診断された退形成星細胞腫およびグリオブラストーマ76例の試料をプロファイリングした。その結果、腫瘍試料のクラスター3個が、生存関連遺伝子108個(このうちの35個は3種類の腫瘍サブタイプの確実なマーカーであった)の差次的発現によって特定された。1つ目のサブタイプでは、正常な脳および神経発生過程に関わる遺伝子の発現が確認され(前神経サブタイプ)、2つ目には増殖関連遺伝子が発現し (増殖サブタイプ)、3つ目には間葉由来で血管新生に関わる遺伝子が発現していた(間葉サブタイプ)。前神経サブタイプの患者(生存期間の中央値 174.5週間)は、増殖サブタイプ(60.5週間)および間葉サブタイプ(65週間)のいずれよりも予後が良好であった。グリオブラストーマ31例の独立集合のプロファイリングでは、この分類の予後的価値が確認された。Phillipsらは次に、(同一患者の原発星細胞腫と再発星細胞腫とを)マッチさせた試料26対の固有の特徴を比較し、腫瘍は再発時に間葉表現型へ移行する傾向があることを突き止めた。

では、各サブタイプは主にどのような特徴をもち、神経発生とどう関わっているのだろうか。予後不良のサブタイプには腫瘍細胞の増殖および血管新生という特徴があったが、この特徴は予後が良好な前神経サブタイプにはほとんど見られなかった。また、予後不良サブタイプには、未分化神経幹細胞および/またはTA 細胞(前駆細胞)のマーカーが発現していたが、前神経サブタイプには、神経芽細胞またはニューロンのマーカーが発現していた。ゲノムレベルでは、増殖性および間葉性の腫瘍のほとんどに、PTEN (ホスファターゼおよびテンシンの相同遺伝子)座を含む10番染色体上の欠失、EGFR (上皮増殖因子受容体)座を含む7番染色体上の増幅が見られたが、前神経サブタイプの腫瘍には、このような変化が認められなかった。前神経サブタイプの腫瘍に過剰発現していたのは、DLL3などのノッチ経路の要素であった。Phillipsらはさらに、ノッチ経路およびAKT経路(PTENおよびEGFR の変化によって活性化する)の変化と関係のある表現型が、患者の生存と直接関連するかどうかを検討し、高悪性度星細胞腫では、PTEN およびDLL3 のmRNAレベルがきわめて重要な生存予測モデルになっていることを突き止めた。ノッチ経路およびAKT経路はいずれも主要な調節因子として神経発生に関わってきているため、以上の所見は興味深い。

Phillipsらは、分子レベルで明らかにされたサブタイプのいずれもが由来の類似した細胞から生じるというヒトグリオーマのモデルを提案しているが、シグナル伝達経路の活性化の差によって、未分化度の高い神経幹細胞様またはTA細胞様の表現型を維持するようになる腫瘍もあれば、神経芽細胞または未熟なニューロンに近い表現型をとる腫瘍もある。幹細胞の生物学とグリオーマの悪性度との相関関係をさらに確認すれば、分子的特徴の有用な予後モデルになるはずである。

doi:10.1038/nrc1895

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