Research Highlights

家族の一員です

Nature Reviews Cancer

2006年8月1日

転写因子MiTファミリーのメンバーであり、メラノサイト分化のマスター調節因子であるMITFの発現は、明細胞肉腫(CCS)に多くみられる。しかし、CCSでのMITFの調節機序もその機能もわかっていない。現在、David Fisherらは、CCS融合タンパク質であるEwing肉腫切断点領域1 (EWS)-活性化転写因子1 (ATF1)を、MITF発現を調節するという理由から、癌遺伝子であるとしている。

CCSは、分子レベルではEWS-ATF1転座を特徴とする軟部組織の悪性腫瘍である。CCSは肉腫でありながらプレメラノソームをもち、メラノサイト分化のマーカーを発現し、場合によってはメラニンを産生する。

Fisherらは、MITFのメラノサイト特異的アイソフォーム(M-MITF)が発現するヒトCCSの3系統を検討した。EWS選択的抗体を用いた免疫沈降法により、3系統とも、EWS-ATF1がM-MITFプロモーターを占有していることが明らかになった。では、EWS-ATF1はM-MITFの転写を調節するのだろうか。この3系統のCCS細胞のすべてでは、M-MITF プロモーターからのルシフェラーゼ発現を指示するレポーター遺伝子が構成的に活性化していた。しかも、CCS細胞にドミナントネガティブEWS-ATF1が発現すると、M-MITF の内因性発現が選択的に阻害された。すなわち、EWS-ATF1は、CCSにおけるM-MITF プロモーターのトランスアクチベーターとして必要である。

では、EWS-ATF1を介するM-MITFの発現がCCSで担う役割は何だろうか。EWS-ATF1のドミナントネガティブ阻害は、M-MITF標的遺伝子のPMEL17(CCSの病理学的識別に用いられるHMB45抗原をコードする)およびMLANA(メラノサイトマーカー)の発現を有意に抑制した。EWS-ATF1阻害CCS細胞では色素沈着も減少し、これはM-MITFの発現によって救済された。以上の所見を総合すると、EWS-ATF1はM-MITFを通じて機能し、CCSの特徴であるメラノサイト分化をメディエートすることがわかる。しかも、M- MITF活性は、CCS細胞の生存および増殖に必要であることが明らかにされており、EWS-ATF1またはM-MITFのいずれかを阻害したところ、 CCSのコロニー形成が起こらなくなった。興味深いことに、MiTファミリーのメンバーTFEBまたはTFE3(胞巣状軟部肉腫および一部の乳頭状腎細胞癌で転座している発癌タンパク質)が発現すると、M-MITF阻害CCS細胞の生存可能性率が用量依存性に救済された。このことから、MiTファミリーのメンバーは、機能的に相互の入れ替わりが可能であることがわかる。

CCSの腫瘍増殖をin vivoで検討するには異種移植モデルが用いられた。EWS-ATF1のRNA阻害はin vivo での腫瘍増殖を強力に阻害し、これはM-MITFの共発現によって救済できた。Fisherらは、CCSではEWS-ATF1融合タンパク質が、M-MITF を標的にすることで機能し、腫瘍細胞の生存および増殖を助長しているとの結論を導いている。

Fisherらは、CCSがメラノーマ、小児腎細胞癌、胞巣状軟部肉腫(それぞれがMiTファミリー遺伝子の明らかな癌遺伝子脱制御を呈する)とともに、 MiTに関連したヒト癌のファミリーをなすのではないかと考えている。このような「MiT腫瘍」は臨床的にも形態学的にも明らかに異なり、ほかの点では共分類されない悪性腫瘍であるが、従来の化学療法および放射線治療に特定の抵抗性を示すという特徴を共有している。このように見かけは異なる悪性腫瘍に共通の癌遺伝子ファミリーがあると認識することは、さらに効果の高い治療法の発見に役立つものと思われる。

doi:10.1038/nrc1957

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度