Research Highlights

何事もほどほどに

Nature Reviews Cancer

2006年10月1日

腫瘍ワクチンの目的は、腫瘍に対する強力な免疫を引き出すことであるが、克服しなければならない障害の1つに、腫瘍関連抗原(TAAs)に対するT 細胞の反応の乏しさが挙げられる。ミモトープは、腫瘍エピトープを模倣するもので、ワクチンで用いてTAA特異的T細胞の数および機能を増大させることができるが、患者の腫瘍退縮は、ワクチン接種によって引き起こされるT細胞の反応の大きさとは相関していないことが多い。Jill Slanskyらは現在、最も効果的な抗腫瘍反応を刺激するのは、T細胞受容体(TCRs)と最大の親和性で結合するペプチドではなく、中程度の親和性で結合するペプチドであることを明らかにしている。

Slanskyらは、コンビナトリアルペプチドライブラリから、主要組織適合性複合体分子H-2Ldとの結合時に、マウス大腸癌のAH1 T細胞エピトープを認識する代表的なTCRへの親和性が増大するミモトープ6種を特定した。培養細胞のT細胞クローンを用いて検討したところ、このミモトープ6種はいずれも、マクロファージの強力な活性化因子であり、充実腫瘍に対する効果的な反応にきわめて重要なインターフェロンγ(IFNγ)の産生を刺激した。また、それらのすべてにおいて、TCRとの結合親和性とT細胞機能の刺激が相関していた。

では、この結合親和性と機能的刺激との間の相関は、in vivoでも認められるのだろうか。マウスにまずミモトープを接種し、次に大腸癌細胞で惹起した。予想どおり、AH1ペプチドが腫瘍増殖を妨げることはなかった。しかし、思いがけず、中程度親和性ミモトープが最も効果的であることがわかった。無腫瘍期間が60日を超えたマウスの数が、高親和性ミモトープを接種したマウスに比べてかなり多かったのである。 Slanskyらが高親和性ペプチドをさらに検討したところ、活性化マーカーの発現が予想されるAH1特異的T細胞がマウスで数多くみられたが、このようなT細胞にはエフェクター機能がないことがわかった。高親和性ミモトープを接種したマウスの腫瘍浸潤T細胞によるIFNγの産生は、中程度親和性ミモトープを接種したマウスの同T細胞よりも有意に少なかった。マウスをほかのT細胞の刺激で処理するとIFNγ産生が増大することから、これはAH1ミモトープによる刺激に特異的であるとわかり、興味深かった。

以上のデータから、腫瘍ワクチンに対するin vivoでの免疫応答の有効性を決めるのは、T細胞反応の数ではなく質であることがわかる。このことは、今後、抗癌治療のためのペプチドワクチンをデザインする際に考慮する必要がある。

doi:10.1038/nrc1995.

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