Research Highlights

構築はチームワーク

Nature Reviews Cancer

2006年12月1日

腫瘍抑制因子p53は、ヒト癌の多くで脱制御されているが、p53が同じファミリーに属するp63およびp73とどのように協調して腫瘍形成を抑制するのか、正確なことはいまだわかっていない。Thorsten Stieweらは、上記3因子が筋細胞への分化時に網膜芽細胞腫タンパク(RB)に対して異なってはいるが相乗的な作用を及ぼすこと、それらの機能喪失が悪性転換を助長することを明らかにしている。

Stieweらは、p53ファミリーのメンバーが筋形成に果たす役割をみるため、骨格筋分化をin vitroで忠実に模倣するC2C12筋芽細胞に、全p53ファミリーメンバーのトランスドミナント阻害因子として機能するp73のアイソフォームであるΔNp73α を形質導入して用いた。ΔNp73αは分化した筋管の形成に干渉し、C2C12細胞が細胞周期から永久に離脱するのを妨げた。ゲノム全体の発現分析からは、C2C12-ΔNp73α筋芽細胞の発現パターンがRB欠乏筋芽細胞と類似していることはわかったが、では、RB活性化の欠如が分化阻害の根本原因となるのだろうか。

C2C12-ΔNp73α筋芽細胞ではRBの活性化が大いに低下しており、不活性な高リン酸化型RBのレベルが顕著に高かった。野生型 RBではなく構成的に活性な変異型RBが異所性に発現すると、C2C12-ΔNp73α筋芽細胞は分化能を取り戻した。さらに、 野生型RBがp57 (CDKN1Cでも知られ、RBのリン酸化および不活化を妨げる)と共に異所性発現した場合にも、分化阻害は免れた。しかし、個々のp53タンパクは、 RBの活性化にどうかかわっているのだろうか。

ドミナントネガティブ阻害因子のp53 (p53DD)またはp63とp73 (p73DD)は、C2C12筋芽細胞の分化能を大幅に抑制し、共に発現している場合にはさらに分化が抑えられたことから、分化コントロールでの機能が相補的であることがわかった。また、RBの発現はp53DDによって阻害されたが、p57の発現はp73DDによって損なわれた。クロマチン免疫沈降では、分化中の筋芽細胞において、p53がRb1プロモーターと結合し、p63およびTAp73 (別のp73アイソフォーム)がCdkn1cプロモーターと結合することが確認された。Stieweらは、筋細胞への効果的な分化のために、p53はRBの発現を調節し、p63およびp73はp57を通じてRBのリン酸化をコントロールすると結論づけている。

分化障害は横絞筋肉腫(RMS)の特徴である。ヌードマウスにC2C12-ΔNp73α筋芽細胞を移植しても腫瘍は形成されなかったことから、分化阻害だけでは腫瘍形成に不十分であることがわかった。しかし、ΔNp73αは、既知のRMS癌タンパク質であるインスリン様増殖因子2 (IGF2)およびPAX3-FKHRと共同で形質転換を誘導する。IGF2+ΔNp73αおよびPAX3-FKHR+ΔNp73αを発現するC2C12 筋芽細胞はいずれも、ヌードマウスでは発癌性であった。しかも、逆転写PCRでは、ヒトRMS試料でもRMS細胞系でもp73アイソフォームの異所性高発現が確認された。また、RMS細胞系では、RNA干渉によりΔNp73αを阻害すると、p57が誘導されて細胞周期が停止した。

Stieweらは、細胞分化の誘導がp53ファミリーの腫瘍抑制因子活性に寄与し、RMS患者における高頻度のp53経路変質を説明しているとの結論を導いている。

doi:10.1038/nrc2038

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度