Research Highlights

少ないほうが多い

Nature Reviews Cancer

2007年2月1日

血管新生および腫瘍増殖という話になると、少ないほうが実際には多いこともある。Gavin ThurstonらおよびMinhong Yanらの研究は、Notch経路を阻害すると、内皮細胞増殖および腫瘍の血管密度が逆説的に増大する一方で、腫瘍増殖は阻害されることを明らかにしている。

両研究グループは、マウス異種移植モデルを用いて、Notch受容体のリガンドであるδ型リガンド4(DLL4)の役割を検討した。Thurstonらは、ラットC6グリオーマ細胞を用い、DLL4または免疫グロブリンG1のFc領域と融合したDLL4(DLL4-Fc)のいずれかのレトロウイルス発現を強化することによって、腫瘍間質でのNotchシグナル伝達をそれぞれ活性化または阻害した。Yanらは、NotchとDLL4との相互作用は遮断するが、ほかのNotchリガンドとの相互作用は遮断しない中和DLL4抗体(YW152F)を創出した。

ThurstonらがDLL4またはDLL4-Fcのいずれかが発現するC6グリオーマ細胞をそれぞれマウスに皮下移植したところ、C6 DLL4-Fc細胞由来の腫瘍は、血管密度は高いものの対照のC6腫瘍よりも小さいことが明らかになった。これに対して、C6 DLL4腫瘍は血管密度がやや低く、サイズは対照の腫瘍と同じであった。さらに、C6グリオーマ細胞のマウスへの移植時にDLL4-Fcがアデノウイルスにより全身に送達されたことによって腫瘍サイズは約70%減少し、DLL4に対する多クローン性抗体も腫瘍増殖を阻害した。Yanらも同じく、数種類のマウス腫瘍モデルに自らのYW152F抗体を用いている。非小細胞肺癌および結腸癌細胞系2株に由来する異種移植腫瘍のサイズは、YW152F処理で静止状態が維持され、YW152Fはマウス乳腺脂肪体に移植したメラノーマ細胞系の増殖速度をも弱めた。

さらに両研究グループは、DLL4を阻害すると、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法に抵抗性を示すヒト線維肉腫細胞系または白血病細胞系のいずれかに由来するマウス腫瘍の増殖が抑制されることを明らかにしている。Yanらは、異種移植した肺癌細胞由来の腫瘍に対するYW152Fの効果は抗VEGFと同じく僅少であるが、両者を組み合わせると腫瘍増殖が有意に阻害されることをも示しており、興味深い。

Notch経路の阻害に反応した血管系の増大に腫瘍増殖の抑制が伴うのはなぜだろうか。Thurstonらは、C6 DLL4-Fc腫瘍は酸素が1/7の低酸素状態であり、この腫瘍の血管のほとんどに血液が流れていないことから、血管が機能していないことを明らかにした。Yanらも同じく、抗DLL4抗体で治療すると内皮細胞分化が異常を来し、潅流量が減少することを突き止めている。

両研究グループは、DLL4-Notch経路が血管特異的であること、マウスにおけるDLL4阻害の忍容性が比較的良好であることを確認している。Yanらは、正常な血管の維持ではなく活発な血管新生時にこの経路が重要であることを示し、Thurstonらは、正常血管に比べて腫瘍血管で DLL4がアップレギュレートされていることを明らかにした。以上のデータからは、抗VEGF療法に抵抗性を示す腫瘍に対しても、DLL4の阻害が妥当な治療戦略であることがわかる。

doi:10.1038/nrc2076

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