Research Highlights

どんな長さでも

Nature Reviews Cancer

2007年3月1日

テロメア結合タンパク質TRF2(テロメア反復結合因子2)は、テロメアの完全性を維持することでよく知られており、いくつかのヒト腫瘍でその発現レベルが高いことがわかっているものの、それが癌で果たす役割は不明である。現在、Maria Blascoらは、マウス皮膚発癌モデルを用いて、TRF2の過剰発現に発癌性があること、テロメラーゼの欠乏がこの腫瘍形成作用を劇的に強めることを明らかにしている。

Blascoらは以前に、ケラチン5(K5)プロモーターを通じてTRF2が皮膚で過剰発現しているマウスのほうが、 UVによる皮膚癌になりやすいことを示している。それを踏まえ、TRF2の過剰発現に腫瘍形成性のさまざまな刺激に対する発癌性があるかどうかをみるため、化学的に誘導した皮膚の多段階発癌モデルを検討した。これにより、K5-Trf2マウスのほうがしばしばサイズの大きな腫瘍を多く発生するうえに、死亡率も高いことがわかった。このマウスが有するテロメアは短く、それは腫瘍を強力に抑制する特徴と考えられることから、前述の所見には驚く。さらに、過剰発現したTRF2 が腫瘍形成にどう影響するのを明らかにするためにK5-Trf2マウスとテロメラーゼ欠損(Terc-/-)マウスとを交配したところ、テロメラーゼの消失およびTRFの過剰発現があれば、自然発生およびUVによる腫瘍のいずれもが劇的に増大することがわかった。

Terc-/-、K5-Trf2、K5-Trf2;Terc-/-マウスの角質細胞を細胞遺伝学的分析に供したところ、TRF2はテロメアの短縮および末端-末端染色体融合(テロメラーゼの消失によってさらにこれが増大)ばかりでなく、テロメア長にもテロメラーゼ活性にも関係なく発生する染色体外テロメア、間質性のテロメア、複数の染色体末端テロメアを誘導することがわかった。この所見は、TRF2の過剰発現が染色体不安定性の誘導によって腫瘍形成を助長することを示し、このような条件下(テロメアが短く、テロメラーゼが不在)では、代替的テロメア維持(ALT)機序が活性化することを示唆している。この考え方と一致して、BlascoらはK5-Trf2およびK5-Trf2;Terc-/-細胞の中に、ALTに典型的な特徴をいくつか突き止めている。

TRF2が過剰発現するヒト腫瘍が多いことを考えれば、以上の結果からは重要な問題、すなわちテロメラーゼ阻害因子に基づく治療戦略は、TRF2が過剰発現する腫瘍には効果がないのではないかという問題が生じてくる。

doi:10.1038/nrc2093

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