Research Highlights

不埒なキナーゼ

Nature Reviews Cancer

2006年3月1日

サイクリン依存性キナーゼ4 (CDK4)はこれまで、ERBB2およびサイクリンD1が過剰発現する乳癌女性の新しい治療標的になりうると目されてきた。

CDK4は、D型サイクリンと相互作用し、網膜芽細胞腫タンパク質(RB)をリン酸化して阻害することによって、細胞周期の進行を調節している。サイクリンD1は、ほとんどの乳癌をはじめ、多くの癌で過剰発現しており、このタンパク質が消失すると、マウスモデルの乳腺発癌が抑制されることがわかっている。しかし、これがサイクリンD1-CDK4複合体のキナーゼ活性に依存しているのか、それともサイクリンD1キナーゼ非依存性機能に依存しているのかが不明であることから、Yuらは調査に乗り出した。

Yuらは、CDK4活性が乳房の発達に必要かどうかをみるため、除去処理した乳腺脂肪体にCdk4ヌル乳腺上皮または野生型乳腺上皮のいずれかを移植したマウスモデルを用いた。移植マウスはいずれも、妊娠中における乳房構造の発達が正常で授乳が可能であった。これは、乳房発達にサイクリンD1の発現は必要ではないという以前の所見を裏付けるものである。

Yuらは、乳癌形成におけるCDK4の機能を検討するため、Cdk4ヌルマウスと、マウス乳腺腫瘍ウイルスプロモーターの制御下で癌遺伝子Erbb2が発現するマウスとを交配し、CDK4の消失が乳癌の発生を阻害することを突き止めた。

サイクリンD1-CDK4複合体はRBを不活化するほか、サイクリンE-CDK2複合体からp27を切り離し、細胞周期の進行を可能にする。Yuらは、この機能が腫瘍形成に重要かどうかをみるため、CDK4と相互作用してp27を切り離す能力が残存するサイクリンD1突然変異タンパク質を発現するサイクリンD1ノックインマウスをLandisらと協同で作製した。しかし、複合体にはキナーゼ活性がない。このマウスはまた、Erbb2によって駆動される乳腺腫瘍形成に耐性を示すことから、Erbb2乳癌の誘導には、この複合体のキナーゼ活性が必要であることがわかる。YuらはさらにRNA干渉法を用いて、CDK4キナーゼ活性が腫瘍の開始のほか、維持にも必要であることを明らかにした。

このモデルはヒト乳癌にも当てはまるのだろうか。Yuらは、ERBB2が過剰発現するヒト乳癌の切片70個を用いてタンパク質発現レベルを分析し、その27%にサイクリンD1の発現増大がみられることを明らかにした。ほとんどの組織は、Cdk4ヌルおよびサイクリン D1ヌルのいずれのマウスでも正常に発生することから、Yuらは、CDK4について、ERBB2を過剰発現するすべての腫瘍における選択的治療標的ではないかと示唆している。

doi:10.1038/nrc1830

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