Highlight

BCGのより強い一撃

Nature Reviews Microbiology

2005年11月1日

BCG(ウシ型結核菌カルメット・ゲラン桿菌)ワクチンの利用が広く行き渡っているにもかかわらず、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)感染は、依然として世界的に主な死亡原因の一つとなっている。BCGは散発する小児結核に対しては防御能を発揮するが、成人の肺結核防御能は限られている。これはT細胞免疫の活性化が不十分なことが一因である。

今回、Stefan Kaufmannらは、Listeria monocytogenes由来の毒性タンパク質を備えた新しいBCG株を作成したことを、Journal of Clinical Investigationに報告している。著者らは、このワクチンで防御効果が上昇していることを示し、その促進メカニズムを説明している。

結核菌防御には、最適なCD4+およびCD8++T細胞免疫である。結核菌およびBCGは共に抗原提示細胞(主にマクロファージおよび樹状細胞)のファゴソームに存在し、そこで結核菌抗原をMHCクラスII経路に導く。MHCクラスII分子と相互作用するのはCD8+分子ではなくCD4+分子であるため、感染結核菌をファゴソームに隔離するためにはヘルパーT細胞応答が有利である。

結核菌感染に対するT細胞応答のバランスを整えるために、Kaufmannらはリステリオリシンを分泌する組み換え体BCG(rBCG)を作成した。リステリオリシンはL. monocytogenesがファゴソーム膜をせん孔するのに用いるタンパク質である。リステリオリシンが穴を開ける機能には酸性pHが最適であるため、ファゴソームのpHを中和する酵素をコードするBCGのウレアーゼC遺伝子を欠失させた。リステリオリシンの機能によりファゴソームを破壊することでBCGを細胞質へ追い出し、MHCクラスI経路によりCD8+T細胞を活性化するだろう、と著者らは考えた。

やはり実際には、ΔureC hly+rBCG株は結核菌抗原を細胞質に蓄積した。結核菌実験室株および新たな臨床単離体を感染したマウスに対するこの新しいワクチン株の防御能は、非修飾BCGに比べ、はるかに効果的であった。

ΔureC hly+rBCGによる防御の促進は、MHCクラスI分子に細胞質抗原が提示されることによるかもしれないが、Kaufmannらのチームの行った実験によると、理由は他にも考えられるという。これまでに、ファゴソームの破壊によって感染細胞にプログラム細胞死が誘導され、結核菌抗原を有するアポトーシス小疱が遊離されることを明らかにしている。周囲の樹状細胞がこれらのアポトーシス小疱を取り込み、抗原をMHCクラスI経路へ導き、これに伴いCD8+T細胞が効率的に活性化される。クロスプライミングと呼ばれるこの現象が優れたワクチン効率に重要なのであろう。

doi:10.1038/fake755

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度