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Agnoが見つけた脱出法

Nature Reviews Microbiology

2005年6月1日

EMBO Reports誌に最近発表された研究で、ヒトポリオーマウイルス属のJCウイルス(JCV)が宿主細胞の核からウイルス粒子を排出する機構について一部が明らかにされた。

進行性多巣性白質脳症(PML)の原因ウイルスであるJCVの粒子は感染細胞の核内で包まれるため、周囲の核膜が核から効率よく排出する際の障壁となっている。ウイルスがこの難関を回避するための1つの方法は、もちろん、核膜を溶解することである。しかし、核を完全な状態に保つことによりウイルス複製をつつがなく続けられるのであり、この戦略によりJCVは細胞間伝播を最適化している。

そしたら、JCVの粒子はいかにして核から細胞質へ脱出するのだろうか。この疑問に答えるために、澤洋文らはJCVの後期遺伝子産物であるagnoprotein(Agno)に着目した。Agnoが感染細胞の核周辺に局在することから、核輸送に役割を有するのではないかと考えた。澤らはAgnoに結合するタンパク質について解析し、興味深いことにヘテロクロマチンタンパク質-1α(HP1α)がAgnoのN末端と結合することを発見した。

HP1αはクロマチンに結合する核タンパク質であり、chromoshadow domainと呼ばれる領域を通して無差別に結合する。結合する相手として知られているタンパク質の1つは内部核膜に必須なタンパク質であるラミンB受容体(LBR)であり、HP1αがクロマチンとLBR両者に結合することにより核膜を安定化させると考えられている。そこで、澤らは、HP1αがAgnoに結合するとHP1αとLBRとの相互作用が損なわれて核膜の構造が変化すると推察した。Agno発現を誘導できる細胞株(293AG細胞)を作製し、このことを証明した。HP1αはLBRとの相互作用を犠牲にしてAgnoと結合したのである。FRAP(fluorescence recovery after photobleaching)分析からも、Agnoタンパク質が高濃度に存在するとこれらの細胞ではLBRの核膜への結合が弱いことが明らかにされた。

最後に、澤らはビリオン様粒子を293AG細胞の核に微注入し、これらの粒子はAgnoが発現する状況下でのみ効率的に核から排出されることを明らかにした。JCVのAgnoのN末端は他のポリオーマウイルスのagnoproteinのN末端と高い相同性を示すことより、ビリオンの核からの移動はこれらのタンパク質に保存された機能であるようだ。 図:微注入されたビリオン様粒子(VLP)の、Agno発現誘導後の核からの排出を示した概略図。北大、澤洋文氏提供。 

  上:ビリオン様粒子の微注入
  下:Agno の発現を誘導

doi:10.1038/fake751

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