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筏は要らない

Nature Reviews Immunology

2005年8月1日

抗原提示細胞がT細胞に接触する部位は、細胞表面受容体とそれに付随する細胞内シグナル伝達タンパク質が複雑に配置された複合体であり、この部位は免疫シナプスと呼ばれている。免疫シナプスの構成成分はよく解明されているが、その形成機構についてはほとんどわかっていない。今回、Cell誌に発表された研究で、T細胞活性化の後に起こる、受容体やシグナル伝達分子からなる個々のマイクロドメインの形成がタンパク質どうしの相互作用によって誘導される可能性が示された。

以前の研究から、免疫シナプスにおけるタンパク質のクラスター形成のメディエーターとしては脂質ラフトと、アクチンおよびミオシンが作る細胞骨格ネットワークの両方が働いていると考えられてきた。そこでDouglassとValeは、シグナル伝達分子が作るマイクロドメインの形成機構をさらに調べるために、固定化したT細胞受容体(TCR)特異的な抗体によりジャーカットT細胞を活性化した後に、緑色蛍光タンパク質(GFP)で標識したT細胞シグナル伝達分子の膜全体にわたる分布と、その単一分子としての挙動とを従来型の共焦点顕微鏡と単分子輸送法の両方によって調べた。

T細胞が活性化されない場合、個々の分子は迅速に移動することもあるが、そうでない時は静止していた。しかし、シグナル伝達分子の種類によってそれぞれ独自の移動パターンが見られた。CD2分子はほとんど動かず、たまにすばやい移動をするだけであるが、脂質ラフトのマーカーの1つ(LCKのアミノ末端側の10個のアミノ酸、LCK10と呼ぶ、をGFPと融合させたもの)、またラフトとは関係のないタンパク質(CD45)はほとんど停止していなかった。このような拡散パターンは、固定化が脂質ラフト形成によるものではないことを示している。ラフトに存在する野生型LAT(T細胞活性化のリンカーとして働く)と、脂質ラフトと結合できないがタンパク質-タンパク質相互作用は可能なLAT変異体(LAT(C-S))の移動性がTCRの架橋形成後に低下することは、この考えと矛盾しない。

TCR架橋形成後、CD2分子は集合してLCK、LATと共局在することが観察されたが、CD45ではそういうことがなかった。脂質ラフトのマーカーLCK10はCD2と共局在しないので、LCKとCD2の共局在はLCKがラフトと結合するタンパク質であるからではない。さらに、リン酸化されないがラフトには結合するLAT変異体(LAT(Y-F))はCD2と共局在しなかった。このことは、チロシンがリン酸化されたLATが仲介するタンパク質間の相互作用が、LATとCD2の共局在を引き起こしたことを示している。

LATの発現が著しく低下しているジャーカットT細胞由来の細胞系列で、TCR架橋形成後のCD2の集合が起こらなくなったことは上記の結果と一致している。また、CD2の集合は細胞にLATを導入することにより回復するが、LAT(Y-F)では回復しなかった。

さらに行われた単分子解析から、CD45はCD2を含むマイクロドメインには入れないことが示されたが、LCK、LATおよびLAT(C-S)はこうしたマイクロドメインに結合することが多く、結合してしまうとほとんど移動しなくなった。つまり、これらの結果は、LCKとLATはCD2を含むマイクロドメイン中に主にタンパク質-タンパク質相互作用を介して捕捉されるのであって、このようなタンパク質の脂質ラフトへの結合はこの過程の決め手ではないことを示している。このことから著者らは、タンパク質-タンパク質相互作用はT細胞シグナル伝達の初期に起こる事象で、これが免疫シナプス形成の機構なのだろうと考えている。

doi:10.1038/fake623

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