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胸腺細胞の分化とDicer

Nature Reviews Immunology

2005年6月1日

マイクロRNA(miRNA)や低分子干渉性RNA(siRNA)は21から22塩基対程度の長さのRNAだが、リボソームヌクレアーゼIIIという酵素の1つであるDicerによって長い前駆体RNAが切断されて生じる。こうしたRNAは、多くの生物で遺伝子転写を調節しており、造血の調節にもかかわっていると考えられてきた。今回、The Journal of Experimental Medicineに掲載された研究で、αβ型T細胞受容体(αβ-TCR)を発現している(αβ-TCR)+T細胞の産生と生存にDicerが必要なことが報告された。

mRNAは3つに1つくらいの割合でmiRNAによる調節を受けていると推定されており、miRNAが造血の調節にかかわっていることを示す証拠も複数得られている。Dicerを構成的に欠失するマウスは子宮内で死亡してしまう。そこでCobbらは、Dicerによって生じる低分子RNAのT細胞分化における役割を調べるために、T細胞分化の初期段階でDicerが特異的に消失するマウスを作出した。T細胞分化のダブルネガティブ 3(DN3)段階でDicerが消失するマウス(lckCre DicerΔ/Δマウス)では、miRNAのうちmiR-181,miR-16およびmiR-142sの濃度が全胸腺細胞集団およびCD4CD8ダブルポジティブ(DP)胸腺細胞の両方で著しく低下していた。lckCre DicerΔ/Δマウスでは胸腺細胞密度もまた、機能を持ったDicerを発現しているマウスに比べると大幅に低下していた。おもしろいことに、この低下は主にαβ-TCR胸腺細胞の数が低減したことが原因であって、DN胸腺細胞やγδ-TCR+胸腺細胞の数は正常、あるいはむしろ増加気味であった。さらにlckCre DicerΔ/Δマウスから単離した胸腺細胞について調べたところ、機能を持ったDicerを発現しているマウスに比べて、これらの胸腺細胞はin vitroでの生存能力が低いことがわかった。

lckCre DicerΔ/Δマウスでは、DP胸腺細胞の数が減少しているのにもかかわらず、ポジティブ選択される細胞の出現率は正常であった。また、CD4+あるいはCD8+シングルポジティブの状態に進んだ少数の細胞では、系統特異的な遺伝子であるTヘルパー誘導性POZ/Krüppel様因子(Th-POK、またはcKROXおよびZFP76としても知られる)とカテプシンWがそれぞれ転写された。このことはCD4/CD8系統の選択はDicerによって生じる低分子RNAによって調節されていないことを示している。

これらの結果は、Dicerの機能が、CD4/CD8系統の選択あるいは系統特異的な遺伝子発現という特定化には必要でないが、αβ-TCR+T細胞の産生と生存に必要であることを示している。Dicerがαβ-TCR+T細胞の分化と生存を調節する機構はまだわかっていない。DicerはsiRNAを作り出すことでヘテロクロマチンのサイレンシングにかかわることが明らかにされているが、著者らは、lckCre DicerΔ/Δマウスから単離したDP胸腺細胞で構成性あるいは条件的ヘテロクロマチン・サイレンシングが起こらないことを示す証拠を見つけてはいない。

doi:10.1038/fake621

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