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毒性を調整する

Nature Reviews Immunology

2005年1月1日

マスト細胞の持つ新しい生物学的機能がNatureに最近報告された。これはエンドセリン-1(ET1)に関連する毒性や病状を制限するという機能である。

ET1は21個のアミノ酸からなるペプチドで強力な血管収縮作用を持っており、敗血症の際、また喘息やアテローム性動脈硬化症などの病変過程で血管内皮細胞から放出される。以前にin vitroで行われた実験から、ET1はマスト細胞の活性化を引き起こし、活性化されたマスト細胞から放出されたプロテアーゼがET1を分解することが明らかになっている。しかし、in vivoでのET1が関連した病状の調節にマスト細胞がどうかかわっているのかはまだわかっていない。そこで、Maurerらは、ET1が誘発する病状におけるマスト細胞の役割を調べるために、野生型およびマスト細胞を欠くマウスの腹膜内にET1を注入した。マスト細胞を欠くマウスは全てが重篤な低体温症と下痢を起こし、ほとんどが注入後3時間以内に死亡した。これとは対照的に、野生型マウスではET1注入での影響は全く見られなかった。野生型マウスのマスト細胞を養子移入して、変異体マウスの腹膜腔にマスト細胞がある状態にしてやると、ET1によって誘導される病変や死亡が全く見られなくなった。

著者らは次に、マスト細胞の脱顆粒の阻害剤であるBAPTA-AMを使い、in vivoでET1が誘発する毒性の低減に脱顆粒反応が必要かどうかを調べた。野生型マスト細胞をBAPTA-AMで処理してからマスト細胞を欠くマウスに移入すると、マスト細胞の防御効果は大幅に低減した。マスト細胞の脱顆粒の際にはキマーゼが放出される。このキマーゼの阻害剤を前もって投与された野生型マウスはET1の注入後に低体温症と下痢を起こし、また阻害剤を投与されなかったマウスに比べて腹膜腔のET1量が多いことから、ET1の分解による防御効果にはキマーゼがかかわっていることが突き止められた。

ET1が引き起こすマスト細胞活性化の機構をさらに明らかにするために、ET1受容体のアンタゴニストが、ET1が引き起こす病状に対する野生型マウスの感受性を変化させるかどうかが調べられた。野生型マウスに、まずET1受容体であるETAに選択的に働くアンタゴニストを投与してからET1を注入すると、マスト細胞を欠くマウスの場合ほどひどくはなかったが、明らかな低体温症や下痢が起こり、ETAがマスト細胞活性化を引き起こすのに重要な役割を担っていることが示された。その通り、ETAを発現しないマスト細胞を移入によって持つようになったマスト細胞欠損マウスは、ET1が引き起こす低体温症や下痢から守られることはなく、一部は死亡した。また、こうしたマウスの腹膜腔ではマスト細胞の脱顆粒の程度が低下しており、ET1濃度は野生型細胞を導入されたマウスに比べると高く、マスト細胞はET1ペプチドの濃度を低下させることによりin vivoでET1が引き起こす病状を防いでいると考えられた。

最後に、急性細菌性腹膜炎のCLP(盲腸結紮・穿孔)モデルを使って、ET1が引き起こす病状に対するマスト細胞による防御の生物学的重要性が評価された。予想した通り、CLP後90時間以内の死亡数は野生型マウスよりもマスト細胞欠損マウスで高かった。しかし、マスト細胞欠損マウスに野生型マスト細胞を移入してやると生存率が野生型マウスとほぼ同じになったが、ETAを欠くマスト細胞を移入した場合はこうした防御効果は見られなかった。つまり、CLPモデルでのマスト細胞の防御機能にはET1とETAに依存する機構が含まれていると考えられる。

この研究で、著者らは内在性のメディエーターによって誘発された毒性の調節というマスト細胞の今まで知られていなかった役割を報告しており、他の化合物の毒性の調節においてもマスト細胞に依存する機構が将来見つかるのではないかと推論している。

doi:10.1038/fake616

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