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T細胞の生き残りを助けるサバイビン

Nature Reviews Immunology

2004年3月1日

分化途上の胸腺細胞のほとんどは死ぬ運命にある。では、胸腺細胞にこういう困難を乗り越えさせ、生き残って機能を備えたT細胞に成熟させるのは何なのだろう。The Journal of Experimental Medicineには、抗アポトーシスタンパク(IAP)ファミリーに属しているサバイビンのT細胞分化における重要な役割を突き止めた2つのグループの論文が掲載されている。 胸腺でのT細胞発生・分化は、細胞表面にあるマーカーの発現状態によっていくつかの段階に分けられる。初期T細胞は、CD4-CD8-のdouble negative(DN)で、さらにCD25とCD44の発現に基づいてDN1、DN2、DN3、DN4段階に分類される。 T細胞受容体(TCR)β鎖遺伝子座の増殖性再編成がDN3とDN4の移行の間に起こり、プレTCRが発現される。機能を備えたプレTCRの発現している細胞だけが著しい増殖をし、分化してCD4+CD8+double positive(DP)細胞となる。しかし、殆どのDP細胞は負の選択を受けるか、あるいはTCRのペプチド-MHC複合体への親和性が高すぎたり低すぎたりすることで無視される。うまく成熟に至った細胞は機能を備えたCD4+CD8-あるいはCD4-CD8+の陽性T細胞として末梢組織へ移行していく。 サバイビンは盛んに増殖を行っている細胞で発現され、以前は細胞周期の進行に関わっていると考えられていた。だが、IAPファミリーに属するにもかかわらず、そのアポトーシスにおける役割には異論が多い。論文を発表した2つのグループはどちらも、T細胞分化の間の増殖とアポトーシスの制御におけるサバイビンの役割について研究を行った。サバイビンが欠失すると胚性致死となるので、両グループは共に条件欠失という手法を用いて、分化中の胸腺細胞のサバイビンをコードしている遺伝子を特異的にノックアウトしている。Zheng Xingらは、発生の異なる段階でサバイビンの欠失が起こる、2種類のT細胞特異的サバイビン欠失マウス系統を作出した。Lck-サバイビンマウスは、サバイビン欠失がDN3段階までに起こり、細胞増殖が停止した結果、胸腺細胞の分化に欠陥が生じる。しかし、DN4段階以降でサバイビンが欠失すると(CD4-サバイビンマウス)、胸腺細胞の初期の分化は正常に進行するが、末梢組織のT細胞は未成熟となりT細胞の恒常的な増殖に問題があるためにその数が著しく減少する。つまり、これらの観察結果は、サバイビンがT細胞分化の初期と後期に重要な役割を持っていることを示している。 Tak Makらもまた、Lck-サバイビンマウスでは胸腺細胞の分化がDN3からDN4への移行段階で停止することを見出した。Makらも、アポトーシスの増加も観察しているが、Xingらと同じく、外因的な刺激によるアポトーシスはサバイビン欠失マウスでも正常に進行することを見出した。増殖性の刺激に対する応答の際にサバイビンが欠失していると、細胞周期の停止、欠陥のある紡錘体の形成、増殖中の胸腺細胞の細胞死が誘発された。サバイビンの欠失はアポトーシス誘導性のp53の発現を引きおこすが、p53の欠失も抗アポトーシスタンパクであるBcl-2の過剰発現も、サバイビン欠失DN3胸腺細胞の分化進行を回復させることはできなかった。このことは、サバイビンの保護的機能がp53やBcl-2とは関係ないことを示している。Makらは、サバイビン欠失細胞では染色体分離や細胞質分裂に重大な欠陥が起きることも観察し、サバイビンの主な役割は有糸分裂進行の制御であり、細胞死はこうした機能に欠陥が生じたことの結果として起こる二次的産物であると考えている。 2つの論文はどちらも、サバイビンが胸腺細胞の表現型をDNからDPに進めさせるという重要な役割をもっていることをはっきり示しており、サバイビンがアポトーシスでは主要な役割を担っていないことを明らかにしている。サバイビンが関わるT細胞の恒常性がどうやって調節されているのかを解明するにはもっと実験を重ねなければならない。

doi:10.1038/fake608

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