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主役はミトコンドリア

Nature Reviews Immunology

2003年5月1日

ウイルスに感染したり形質転換をおこした細胞を、グランザイムBがカスパーゼ類を活性化して破壊する仕組みはどのようなものなのだろうか。この問題は、現在かなりの注目を集めているのも確かだが、同時に論争の的にもなっている。The Journal of Cell Biologyのp.355に掲載された論文に加えて、C BleackleyらとJTrapaniらの2つのグループも、この問題に関する研究をImmunityに発表した。
細胞傷害性のリンパ球は、主に分泌顆粒内容のエキソサイトーシスによって標的細胞を破壊する。顆粒にはグランザイムBなどのようなセリンプロテアーゼ類や細胞膜に小孔を開けるパーフォリンなどが含まれている。グランザイムBは、カスパーゼの活性化を介して細胞死を誘導するが、そのために重要なのはグランザイムBの持つ酵素活性だと考えられている。しかしそれがどういう形で重要なのかは、まだ論争中の問題である。以前の研究では、BCL-2の過剰発現が、細胞をグランザイムBによる破壊から守ることが明らかにされた。BCL-2は、抗アポトーシスタンパク質であって、ミトコンドリアを標的とするような細胞死因子の働きを阻害する働きを持つ。このことは、グランザイムBがカスパーゼ-3などのカスパーゼ類を直接活性化するだけではなくて、ミトコンドリアを介する細胞死経路にも関わっていることを示している。しかし、これが分子レベルでどのようにして起こっているのか、その仕組みは今までわかっていなかった。
この仕組みをさらに明らかにするため、Bleackley らは、グランザイムBとアデノウイルスで処理後の、BCL-2が過剰発現されている細胞でのカスパーゼ-3切断がどういう特徴を示すか調べた。アデノウイルスは小孔形成タンパク質の役割をして、標的細胞内へのグランザイムBの放出を促進させる。カスパーゼ-3の活性化は2段階に分かれて起こる。まず最初にタンパク質の切断が起こり、その後にカスパーゼの持つ自己触媒活性によって自己活性化が続く。BCL-2が過剰に発現している細胞では、カスパーゼ-3の切断は部分的にしか起こらず、高濃度のBCL-2がその後に起こるカスパーゼ自己活性化を阻害することが明らかになった。
Bleackleyらは、このカスパーゼ活性化を阻害しているのは、アポトーシスタンパク質の阻害物(IAP)だろうと考えた。そこで、グランザイムが誘発する細胞死に、過剰に発現されたXIAPがどういう影響を及ぼすか調べた。XIAPを過剰発現している細胞では、カスパーゼ-3の活性化は阻害され、このような細胞はグランザイムBの細胞傷害性作用から守られていた。SMAC/DIABLOはミトコンドリアのタンパク質で、アポトーシスをおこしている細胞から放出され、カスパーゼ前駆体からIAPを取り除いて、カスパーゼの自己活性化を促進する。XIAPあるいはBCL-2を過剰発現している細胞で、このSMAC/DIABLOを発現させると、アポトーシスの阻害は解消し、グランザイムBによる細胞破壊が起こるようになった。
Trapaniらは、グランザイムBとパーフォリンの影響をジャーカットT細胞を用いて調べ、グランザイムBが誘導するアポトーシスではミトコンドリアの関わる経路が重要であることをはっきりと示した。Trapaniらはまず、プロアポトーシスタンパク質であるBH3-結合ドメインタンパク質(BID)がグランザイムBにより切断され、それからミトコンドリア内に転位することを明らかにした。次に、ジャーカット細胞をグランザイムBとパーフォリンに曝露すると、プロアポトーシス因子であるチトクロムcやSMAC/DIABLO、HtrA2/OMIのミトコンドリアからの放出が起こることを明らかにした。BCL-2の過剰発現はこれらのプロアポトーシス因子の放出を抑え、カスパーゼの自己活性化を阻害する。その結果、こういう細胞ではグランザイムBを介して起こるアポトーシスが阻害される。XIAPの過剰発現も、結局は同じように働いている。カスパーゼ-3の自己活性化を阻害して、こういう細胞をグランザイムBの毒性作用から守っているのである。
つまり、これらの結果はグランザイムBが関わる細胞死では、ミトコンドリアが関わる経路が重要であることを示している。グランザイムBは、最初にカスパーゼ-3に直接的に働いて切断を起こすこともするが、カスパーゼ全部が活性化されるのには、SMAC/DIABLOやHtrA2/OMIなどのミトコンドリアのプロアポトーシス・タンパク質がIAPの働きを阻害するのに必要とされ、これらが放出されてはじめて、グランザイムの関わるアポトーシスが起こるのである。

doi:10.1038/fake600

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