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シグナルを送るクロストーク

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2006年2月1日

有糸分裂の際には、複製された染色体が凝縮し、次いで2つの娘細胞に分配される。こうした過程はさまざまな有糸分裂キナーゼによって調節されているが、これらのキナーゼの活性を協調させている仕組みはまだわかっていない。稲垣昌樹らは、この調節機構解明の手がかりとなる結果をNature Cell Biologyに発表している。

有糸分裂キナーゼであるオーロラBはINCENP(inner centromere protein )とサバイビンと共に複合体を形成する。INCENPはオーロラBによってリン酸化されるが、稲垣らは今回、INCENPはサイクリン依存性キナーゼ1(Cdk1)によっても有糸分裂依存的にリン酸化されることを明らかにした。

稲垣らはまた、第3番目の有糸分裂キナーゼ、Polo様キナーゼ1(Plk1)がCdk1によってリン酸化されたINCENPに特異的に結合することも見いだした。この結合は、INCENPのリン酸化部位であるThr388を変異させると起こらなくなるが、やはりリン酸化を受けるThr59を変異させても結合に影響がない。Thr388がリン酸化されたINCENPとPlk1との相互作用は、有糸分裂HeLa細胞抽出物由来のINCENPを使って免疫沈降法によりin vivoでも確証された。Plk1とオーロラBが共に抗INCENP沈殿物中に認められたのである。

次に、オーロラB-INCENP-サバイビン複合体とPlk1の間の関係を解明するために、RNA干渉法によりこの複合体の成分を1つずつノックダウンする実験が行われた。そして、INCENPが欠失すると、Plk1のキネトコアへの移動・集合が起こらなくなることがわかった。この表現型は野生型のINCENPあるいは Thr59が変異したINCENP(Thr59Ala)の外因性発現によって救済されるが、Thr388が変異したINCENP(Thr388Ala)では救済されない。これは、INCENPのThr388のリン酸化が、Plk1がキネトコアに移動・集合するのに重要であることを示している。またINCENPは、おそらくPlk1と直接複合体を形成することによってこのキナーゼを局在させていると考えられる。さらに、Thr388Ala変異体で内在性INCENPを置換すると、中期から後期への進行が遅くなり、これによってINCENPのCdk1によるリン酸化が生物学的に重要であることが確認された。

稲垣らは、有糸分裂初期にINCENPはオーロラBとCdk1によってリン酸化され、Plk1はThr388がリン酸化されたINCENPのところに集まると考えている。Plk1は、個々の染色体を紡錘体の極に牽引する微小管のエネルギーを生み出すことで紡錘体形成に重要な役割を持つと考えられているが、オーロラBはキネトコアと微小管の間に染色体を正しく付着させる機能を持っていると考えられる。従って、Plk1とCdk1およびINCENPに結合したオーロラBの間で行われるシグナル伝達クロストークと、これらのキナーゼの機能協調は、有糸分裂における染色体の分離と中期から後期への進行の重要な段階なのだろう。

doi:10.1038/fake589

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